もともとぼくは小説の王道とは距離をおいて、シナリオ修業から物書き生活をスタートした。そのあげく覇道というよりけもの道でしかないマンガ・アニメの脚本にいたったのだが、どの道でも常時いわれたのは「キャラクターの創造」である。小説風にいうなら「人間を描け」である。ところがぼくは子供のころから、お話作りに精出していた。登場人物が筋書きに奉仕しているから、ドラマに波風を立たせても読者は親身になって読んでくれない。その悪循環が今もつづいているという自覚がある。
だが葉村シリーズはそうではない。本書で活躍する彼女の舞台は広い。ミステリとしての趣向も多岐にわたっている。
刑務所帰りの女と密輸(ラスト二行の冷徹さよ)、想像を絶する怪アートと謎の資金(コントラストも凄まじいが、そのとめどない風呂敷の広がり具合)、鉄道ミステリと古書オークション(ぼくも本は好きだがこんな修羅場は知らない。ドサクサ?に紛れて辻の名を出してくださり感謝です)、欠陥老朽団地やら老人ホームやら(ぼくの仕事部屋は熱海のシニアマンションですが、土砂崩れで送水管が吹っ飛び半月ほど断水中。ひとごとではありません)、手を替え品を替えながら一貫して変わらぬ魅力を放ちつづけるのは、軸となる葉村晶の存在感ゆえに違いない。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。