はじめこそおいしい仕事、あるいはラクな注文のはずだったのに、どういう賽(さい)の目が出たのか、アラアラという間もなく悲惨な業務遂行の羽目になる連作、高見の見物である読者としては申し訳ないけれど、つい可笑しくなる。なのにこのヒロインは、ぶうぶう不満を垂れながらでも、必ず料金以上の仕事をしてのけるから頭が下がる。
世の不均衡不平等不合理を百も承知で、その間隙(かんげき)を縫い股ぐらをくぐってスポンサーを満足させ、ときにはそれさえ足蹴(あしげ)にして自分の美意識に奉仕する。寺院の池で泥まみれになろうと(『水沫隠れの日々』参照のこと)、幽霊ビルの夜警で凍えそうになろうと(『新春のラビリンス』参照のこと)、探偵の矜持を守りぬく。ムリにかっこつけてるのではない、それが彼女の自然な生きざまだから、全身これ名ダンディだ。
ね、機会があったら、ぜひ一杯飲もうじゃないか、葉村さん。
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