メインメンバー以外にも読んでいくと至るところに近代文学へのオマージュを含んだ遊びがちりばめられている。注釈を見ることでさらに楽しめる仕掛けだ。
「自分の創作が、先人の仕事やその叡智と地続きにあることを表明する方法論、それがレファレンスを徹底することだと思ってます。読んでるうちに“原典”に当たりたくなってもらえたら成功ですね。やる以上は本気で遊ぶつもりで、架空の出来事についても原典で拾える“事実”にはすべて則ります。たとえば『伊豆の踊子』は、一八九九年生まれの川端康成が十九歳のときの伊豆旅行が下敷きとされているから一九一八年のこととして、だったら作中に十四歳と書かれている薫は、震災の年には十九歳だな、とか。
それと同時に、もうひとつの“事実”――史実を史実のまま扱うというルールを設けました。物語の登場人物が現実に入り込んでいるという一点以外は全部リアリズムで描いてこそ、ストーリーで読者を驚かせることができる。エンターテインメントの作法としてそこは崩さずにいこうと思いました」
日本文学を背負って立つキャラクターたちを物語に遊ばせるからこその覚悟。色恋談義で盛り上がる大杉栄と光源氏に苛立つ坊っちゃん、なんてシーンに本好きは誰しもにやりとしてしまうはず。歴史的名作の数々を受け継いで新たに生まれようとしている快作、どうぞお楽しみください。
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