- 2019.12.23
- 書評
元NHK検察担当記者も思わず唸る、リアルを超えた社会派エンターテイメント
文:鎌田 靖 (元NHK解説副委員長 フリージャーナリスト)
『標的』(真山 仁 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
カネ余りのアメリカ。自動車不況で財政破綻したデトロイトの再生を手掛けた投資会社を紹介したときは、
「アメリカの凄いところは、一度ダメになったところは完全にスクラップにする。すると土地の値段が安くなって再開発できる。つまりアメリカはこうした事態をチャンスととらえるが、日本はそうはできない。ああダメだったとなってしまうだけ。この投資会社も『ハゲタカ』ですよ」(iii)
議論の分かれるテーマであっても視聴者に迎合せず、取材から導き出される現実的でリアルな視点を毎回提示してくれた。テレビだということを忘れて思わず議論になることもあり、知的興奮を覚えたことも度々だった。真山の出演回数は都合十三回とかなり多い。彼がゲストだと聞くと番組収録が待ち遠しくてたまらなかった。その意味で一九年九月に番組が終了したのは返す返すも残念なことだ。
前置きが長くなってしまった。本題の「標的」についてである。初の女性総理大臣を目指す越村みやび。彼女がライフワークとして成立に執念を燃やすのがサービス付き高齢者向け住宅、いわゆる「サ高住」の規制強化を目指す新たな法律だ。みやびをめぐって東京地検特捜部にもたらされた内部告発をもとに内偵捜査を進める特捜検事冨永真一。そして特捜の動きを追いかける暁光新聞記者の神林裕太。物語は、みやび、冨永、神林の三者の視点で重層的に紡ぎだされていく。本書のクライマックス、みやびと冨永の対決シーンでは思わずうなってしまった。私は文芸評論家ではないので陳腐な感想になってしまうが、本書の印象についても同じ形容をさせていただく。「リアルだなあ」