- 2019.12.23
- 書評
元NHK検察担当記者も思わず唸る、リアルを超えた社会派エンターテイメント
文:鎌田 靖 (元NHK解説副委員長 フリージャーナリスト)
『標的』(真山 仁 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
もう一つが一九九五年一月の阪神・淡路大震災だ。私はNHK神戸放送局に勤務していて被災した。真山も当時住んでいた神戸市垂水区で被災している。震災を関西で経験した人は、その時のことを互いに話すうちに必ず仲良くなるという思い込みが私にはある。
「ハゲタカ」でついにブレークした真山とその授賞式で会うことはできなかったが、その後「社会派エンターテインメント」作家の第一人者となった彼とはいつか会えるだろうと、心待ちにしていた。そしてその機会は十一年後にテレビ局のスタジオでやってきた。
テレビ東京の「未来世紀ジパング」という報道番組のナビゲータを務めていた時、スタジオのゲストとして出演してくれたのが最初の出会いだ。この番組は世界の沸騰する現場を紹介して日本の未来を考えるヒントにしようというのがコンセプトだったが、彼のスタジオでのコメントは綿密な取材に基づくリアルな解説が持ち味だ。例えば二〇一九年九月エネルギー問題を取り上げたとき、真山はこう述べた。
「福島の事故をいまだに国内でちゃんと総括できていないのに、安全という確信もなく再稼働するのはよくない。でも世界の原発の安全を考えると、長い経験値がある日本の原発が完全撤退するのもよくない」(i)
香港の民主化運動を取り上げたときは、
「運動している人たちがそろそろ落としどころを探したほうがいい。どこまで交渉で手を打てるか互いにやり取りをしないと。反対のための反対になって命を落とす人が出る前に」(ii)
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