- 2019.12.23
- 書評
元NHK検察担当記者も思わず唸る、リアルを超えた社会派エンターテイメント
文:鎌田 靖 (元NHK解説副委員長 フリージャーナリスト)
『標的』(真山 仁 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
なぜリアルといえるのか。個人的なことで恐縮だが、NHKの記者時代に私は比較的長く検察担当を務めた。本書にも出てくるP担だ。八〇年代後半、担当した途端にリクルート事件が火を噴き、佐川急便事件、自民党の金丸副総裁脱税事件、大手ゼネコン事件と続いた。怒濤の数年間だった。凡庸な記者なりに精一杯仕事をしたつもりだが、今でも他社に抜かれたときの夢を見ることがある。スクープした夢なんか一度も見たことがない。そんな私にとって印象的なエピソードが本書に出てくる。ヒラの検事に取材したことがばれると記者は出入り禁止になるというくだりだ。まったくその通り。検察庁は取材が難しい役所なのだが、とりわけ取材先は副部長以上の幹部だけというルールに縛られる。だからといって幹部が親切に教えてくれるわけでもない。他社とのし烈な取材競争に打ち勝つには、そんなルールには構っていられない。だから私もそうだが主要な社の記者は特捜部のヒラの検事の自宅に通う。しかし敵もさるもの。記者が来た時には検事は上司に報告することになっている。こうして取材したことがばれると「出入り禁止」となって幹部の取材もできなくなったり、記者会見に出席できなくなったりというペナルティーを受けるのだ。クロスボーダー部記者の神林が特捜検事の冨永に取材をかけたことを同期のP担の記者が激怒するというくだりがあるが、このP担の気持ち、私にはよくわかる。
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