2019年11月24日、琉球史家であり浦添市立図書館の上里隆史館長の企画で、松本清張賞作家の滝沢志郎氏(第24回受賞)と川越宗一氏(第25回受賞)のトークショーが実現。火災に見舞われて約一月後の首里城をも訪れることになった。
琉球王国から近代史まで沖縄に関心を抱いた理由
11月下旬、沖縄県浦添市でのトークイベントと、新作の取材のため、羽田空港を出発しました。ダウンジャケットを着るべきかと迷ったほど寒い朝のことです。ところが、那覇空港に着いた途端、むわっとした暖気と湿気に包まれました。到着ロビーでは、乗客が次々に上着を脱ぎはじめています。私は、着てきた服、持ってきた服、すべて間違えたことを悟りました。ヒートテックなんていらなかったのです。これまで沖縄には何度か来ていますが、これほど気候の差を感じたのは初めてでした。これが今回の沖縄訪問の、最初の印象でした。
私が沖縄に関心を抱くようになってから、もう20年以上が経ちます。きっかけは、大田昌秀知事の時代に、沖縄の米軍基地問題が全国ニュースで扱われるようになったこと。当時高校生だった私は、沖縄に米軍基地が集中しているそもそもの原因である沖縄戦について、調べはじめました。そして、そのあまりの惨たらしさと、それを知らなかった自分にショックを受けたのです。両親の実家が広島県とその隣の島根県だったので、夏休みには毎年のように原爆ドームを見ていました。しかし、3ヶ月以上に及ぶ地上戦の様相は、一瞬で街が消滅した原爆投下のそれとは、また異質な衝撃でした。
沖縄戦は大きな破壊です。そこで破壊されたものは何だったのか、そこに到る皇民化政策の過程で失われた沖縄の独自性とは何だったのか。それが次の関心になりました。興味の対象は、当初、18世紀の琉球王国「蔡温時代」まで飛び、今は近代(戦前)の沖縄史にも手を広げています。じつは、大正時代の沖縄を描いた短編も、最近書きました。デビュー作の『明治乙女物語』と同じく、女子校が主な舞台です。