本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
火災焼失した首里城で松本清張賞作家が考えたこと(1)

火災焼失した首里城で松本清張賞作家が考えたこと(1)

滝沢 志郎


ジャンル : #歴史・時代小説

復元のための知識と知恵と技術は燃えていない

 トークイベントに呼んでくださったのは、浦添市立図書館長であり、著名な琉球史研究家でもある上里隆史さん。沖縄行きにあたっては、あえて定番の観光地である首里城を上里さん流に案内していただくという、贅沢な希望を出していました。その矢先に起きたのが、あの火災です。

 それでも首里城周辺を案内していただくと、城壁の外から、真っ黒に焼け焦げた屋根瓦が見えました。その光景は忘れられません。今年の2月に復元が完了したばかりの御内原エリアは、ついに見ることが叶いませんでした。初めて沖縄を訪ねたとき、首里城のガイドの女性が、御内原の復元計画について解説していたのを覚えています。完成予定はいつかと質問したら、「19年後の予定なので19年後にまた来てください」と笑顔で返されました。あのガイドさんは今どんな気持ちでいるのかと、時々考えます。

首里城の城壁ごしに見える焼け崩れた屋根瓦

 ただ、乱暴な言いかたをすれば、建物が焼けただけです。1992年に完成した首里城の復元プロジェクト、その最大の宝は、復元のために集められた知識と知恵と技術であり、首里城に愛着を抱くたくさんの方々の心だと思います。それは燃えていません。悲しいことではあっても、絶望する必要はないはずです。私も、できるかぎり協力させていただくつもりです。

 私にとって沖縄の大きな魅力のひとつは、沖縄に愛着を持つ方々の存在そのものです。以前、「世界のウチナーンチュ大会」のパレードを国際通りで見たことがあります。沖縄をルーツと自認する方々が、日本中、世界中から集まり、沿道の人と交歓していました。そのとき、沖縄県という行政区分は沖縄の一部でしかない、と感じました。この人たちのいる場所こそが沖縄であり、世界中に小さな沖縄があるのだろう、と。沖縄はとても広いのだと思います。そんな沖縄に、今後も関わっていけたらと願っています。

 最後に、今回のイベントに関わってくださった皆様、取材旅行で出会ったすべての皆様に感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。


プロフィール

滝沢志郎(たきざわ・しろう)
1977年島根県生まれ。東洋大学文学部史学科卒業。2017年『明治乙女物語』で第24回松本清張賞受賞。18年『明治銀座異変』上梓。19年短篇「琉宮城の姫君」(小説すばる)発表。佐藤亮名義で『琉球王国を導いた宰相 蔡温の言葉』(ボーダー新書)。

【次ページ 番外・滝沢さんの撮った沖縄本島取材風景】

文春文庫
明治乙女物語
滝沢志郎

定価:880円(税込)発売日:2019年06月06日

単行本
明治銀座異変
滝沢志郎

定価:1,870円(税込)発売日:2018年09月14日

プレゼント
  • 『神域』真山仁・著 

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2022/10/5~2022/10/12
    賞品 『神域』真山仁・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る