「令和」という元号が日本の古典の詩歌から取られたことに、私は大きな喜びを感じた。日本の古典文学の翻訳の仕事を続けていくうえで、大きなエネルギーをもらえたように思えたのだ。「令和」の由来となった『万葉集』は、新しい時代を象徴する歌集となった。日本最古の文学作品のひとつだが、これから私たちが進んでいく未来についても多くの示唆を与えてくれる。また、この本は私の還暦の記念の本でもある。かつて日本では、年を重ねた人は「翁」と呼ばれ、言祝(ことほ)ぐこと、すなわち祝福を与えることがその役割だとされていた。この本が、私から日本の人々に贈るささやかなお祝いとなれば、とても嬉しい。『万葉集』の世界は美しい。その歌は、新鮮な世界観に満ち溢れている。
だから、この本は令和の最初の年に出したかった。すると締め切りまでおよそ二カ月となる。この二カ月という時間はあっという間に過ぎ去っていった。非常にタイトなスケジュールだったので、この間一日も休みをとることはできなかった。ようやく脱稿したその翌日、ある友人が杉並区にある大宮八幡宮に誘ってくれた。大宮八幡宮は木々に囲まれた美しい神社だ。私はしばらくの間、満足に戸外の空気を楽しむこともできなかったので、鎮守の森の散策は私の心に大きな喜びをもたらしてくれた。
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