歩きながら、私はこんなことを考えていた──自分の翻訳も、こんな光でいっぱいに満たしたいものだ、と。太陽の光に照らされた木々。木の葉がたてるさらさらという音。やわらかく湿った黒い土。美しい秋の日差し。遊びまわる子どもたちの声。ペットの亀を散歩させている老婦人のやさしさ。川の水の流れ。美しい秋の日。このような光景、音、そして自然の美しさは、万葉の時代から何も変わってはいない。今日、自然環境の破壊は深刻だが、それでも万葉の歌に描かれた、自然や人のすがたに私たちは共感することができる。
ちょうどこの本の「結びにかえて」を書き終えようとしている頃、私はあるイベントで南半球のさる国の駐日大使と出会った。私が自分の翻訳の仕事について説明すると、彼は「日本の文学は面白いですか?」と尋ねてきた。私がイエスと答えると、彼はこんなことを言った。「そうですか。でも、世界的にはあまり知られていませんね。もし日本の文学が素晴らしいものであるなら、なぜもっと注目を集めていないのでしょうか?」と。『万葉集』の世界的な知名度が低いのは、優れた訳詩がこれまで少なかったからだろうと私は考えている。私は、この翻訳が『万葉集』に対するいくつかの誤解を払拭し、最新の研究に基づく新たな『万葉集』のイメージを提示する第一歩となることを望んでいる。そして『万葉集』が、日本の文学史における宝物というだけでなく、世界的にも重要な文学作品として認知されるようになることを願っている。
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