これまで軽視されてきた「馬」の役割
最もシンプルな歴史の理解は、大きな出来事や社会変動を境界線として、時間の流れを二つに分けることだ。本書で取り上げる境界線は「馬」である。
縄文時代、弥生時代の日本列島に馬はいなかった。馬の飼育という新しい文化が朝鮮半島から持ち込まれ、広がってゆくのは五世紀前後の時期、古墳時代中期の出来事だ。各地の遺跡から出土した「馬の骨・歯」「馬具」「馬の形の埴輪」という三つの遺物が、五世紀ごろに馬の飼育が定着した証拠とされている。
五世紀末ごろには岩手県南部で馬が飼われていた痕跡があり、奈良時代になると、青森県など東北北部が国内有数の馬産地として頭角をあらわしてくる。馬の飼育という文化が短期間に広がったのは、日本には「草原の国」としての一面があり、馬の成育にふさわしい環境に恵まれていたからだ。
輸送、通信、農作業など、馬にはさまざまな用途があるが、五世紀前後、日本列島にこの動物が持ち込まれたのは軍事利用のためだった。そうした背景もあって、「馬の日本史」の始まりは武士の誕生の前史と重なっている。各地の馬牧(うままき=馬の飼育場)は武士が勢力を養う拠点地でもあったからだ。
こちらもおすすめ
-
実力より人柄と家柄。こんな人事がなぜまかり通る!?
2019.11.20インタビュー・対談
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。