「草原の国」としての日本
馬の繁殖に必要なのは、馬のエサが豊富な天然の草原だ。肝心の草原が朝鮮半島には乏しかったのだ。その結果、大きな馬産地は成立しなかったと考えられる。
朝鮮半島で戦争が続き、馬への需要が高まったとき、朝鮮半島あるいは大陸から馬の専門家が続々と日本に渡来したといわれている。考古学の知見によって示されていることだが、文字記録がほとんどないので、その背景はわかっていない。
東アジアにおける草原分布をふまえて想像をめぐらすならば、朝鮮半島南部の人たちが、日本列島に注目したのは、そこに馬の飼育にふさわしい草原的な風景が見えたからではないだろうか。
日本の歴史を考えるうえで、きわめて重要であるにもかかわらず、従来、軽視されていたことがある。それは、日本には「草原の国」としての一面があることだ。一説によると、縄文時代は列島の三割を草原的な環境が占めていたともいう。中国東北部からモンゴルに至る大草原をのぞけば、東アジア、東南アジア地域のなかで、日本は有数の草原のある国であり、それを背景とする馬産地が関東、東北、九州などに形成された。
草原というと、モンゴルやアメリカ大陸の大草原の印象が強いかもしれないが、典型的な日本の草原は、エノコログサ(ネコジャラシ)、ススキなどの生えた原野である。私たちにとって身近な原っぱ、草原(くさはら)の風景だが、これらの雑草が馬にとっては格好のエサとなった。
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