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<対談>家入レオ×千早茜「嘘がない自分を受け入れたから、見えてきた」

<対談>家入レオ×千早茜「嘘がない自分を受け入れたから、見えてきた」

別冊文藝春秋

電子版30号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

千早 ありがとうございます。よかったです、本当に。だって神名が嫌いだっていう感想、けっこうもらうから……。

家入 え!? 本当ですか? やばい、私やっぱり嫌われるタイプなのかな(笑)? わからないなぁ、こんなに愛すべき子なのに。

千早 私としては意図通りなんですよ。たとえば神名が、恋人の彰人に殴られて、鼻血をだすシーン。神名はそれでも締め切りに向けて絵を描く。どう考えても殴った男性のほうが非難されそうなものだけど、彰人がかわいそうっていう意見のほうが多かった。

家入 信じられない。

千早 それこそ私の書きたかったものなんです。殴られて、それでも「かわいそう」じゃない子。だって、憐れまれる主人公ばかり書くのは安易な気がするんですよ。鼻血をだして拳で拭いてても、かわいそうに見えない人間が書きたかった。私はいつも、マイノリティを書こうと思っているんです。いまの世界では、夢を叶えたり奔放に見えたりする強い子だってマイノリティ。そんな気持ちで書きました。

家入 ああ、なるほど。でもきっと……強い子っていうのは、強くありたいと思ってる子なんですよね。だって、自分で選べるんだから。強くあろうと思うか、それとも私ってかわいそうだなって自分で自分を慰めながら生きていくか。少なくとも私は前者でありたいと思ってるだけで、強い人間なわけじゃないから。

千早 本当にそうですね。神名も、強くありたいと思って生きている子。

家入 そういう生き方を選ぶと、ともすれば嫌われる。そりゃあ、ひとのことを褒めてるほうが楽に生きていけると思うんです。でも、それいいの? って。だって、まず自分のことを見つめなきゃ。徹底して自分のことを考えなきゃって。私なんてそれが行き過ぎて「自分のことしか考えられない病」にかかってるのかもと思うんですけど(笑)。

千早 いや、何かを成すためには、自分のことだけちゃんと考えるっていう時期がぜったい必要なんだと思いますよ。だって、すべてはそこからだから。私が書いた主人公で、もうひとりそういう子がいて。『西洋菓子店プティ・フール』という作品のパティシエールなんですが、彼女はお菓子を作るのに必死で、婚約者のこともほっぽらかし。「ないがしろにしててひどい」って感想をいっぱいもらったけど、でも、みんなは仕事に一生懸命なときに他人のことをそんなに大事にできるのかな? 最初からそんなことできたのかな? って疑問に思う気持ちもあるんです。それに、これが男性だったら話はまた別なんですよね。男性が仕事に没入するのは何も言われない。でも女性の場合それだけではダメで、夫や子供や、他人を立てることができてはじめて成熟した女性と認定される。

家入 そうかぁ、そうですね。そう考えると、私はいままで「女の子」として生きることは避けてきたのかも。子供の頃はスカートを穿くことすら苦手だったから……。

別冊文藝春秋からうまれた本

文春文庫
西洋菓子店プティ・フール
千早茜

定価:715円(税込)発売日:2019年02月08日

文春文庫
男ともだち
千早茜

定価:781円(税込)発売日:2017年03月10日

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版30号(2020年3月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年02月20日

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