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汚れていた言葉を、正しい形でもう一度手に入れる、という読書体験

汚れていた言葉を、正しい形でもう一度手に入れる、という読書体験

文:村田 沙耶香 (作家)

『最愛の子ども』(松浦 理英子)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

『最愛の子ども』(松浦 理英子)

「わたしたち」の一人である美織の両親は「道なき道」の先にこんな人がいたら、と憧れてしまうような存在だが、彼らはこんなことを言っている。

「地味でも人は日常の場で近くにいる誰かに影響を与えるものだよ」

 読者である自分は、現実世界を担う破片でもある。目撃者でも読者でもない、この世界の当事者としての自分は、彼女たちほど誠実に言葉を探すことができているだろうか。

 自分に問いかけながら、しかしそうして問うことができることに感謝したくなる。汚れていた言葉を、私は正しい形で、もう一度手に入れることができた。その言葉を明日からどうやって使っていくか、そしてどんな名前のステップで進んでいくのか。十年後、二十年後の自分は、どんな形をした世界の破片になっているのだろうか。ここから先は、目撃者の「わたしたち」ではなく、読者である「わたしたち」の物語なのかもしれないと思う。十年後、この物語を読み返したときに、今とは違う破片になっていたい。そのとき、この物語は私にとって、まったく違う意味をもって身体に入ってくるのではないか。そのとき、「家族」という言葉の本質に何があるのか、「わたしたち」は改めて知ることができるのかもしれないと思っている。

(初出 「文學界」二〇一七年六月号)

文春文庫
最愛の子ども
松浦理英子

定価:803円(税込)発売日:2020年05月08日

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