時系列に沿って三人の関係性の変化を辿ろうとすると、まずは「夫婦」の出会いがあることになる。中等部の三年生に上がってクラスが一緒になった、日夏と真汐は、学校のホールで行われた来日留学生の修了式兼歓送会の出来事をきっかけに、「夫婦」と呼ばれるほど仲が良くなる。人前ではべたべたしないものの、真汐は日夏の「妻」、日夏は真汐の「夫」とみなされている。
「〈夫〉というのが具体的に何を意味するのか言える者は誰もいないけれど」
と「わたしたち」は言うが、それでも二人は「夫婦」なのだととてもシンプルに納得することができる。
夫婦である二人の間に、やがて子供である「王子様」が介在するようになる。高等部から学園に入ってきた空穂と同じクラスになると、二人は彼女に近付き、懐かせ、庇護し、躾をするようになる。
しかし三人の関係は、少しずつ揺れ動いていく。修学旅行で体罰が起きたこと。そのことによって「王子様」が何かに目覚め、触れられる楽しみに敏感になったこと。「パパ」と「王子様」の間に、淡い近親相姦的な関係が発生しはじめたこと。そのことで、「ママ」が孤独になり、二人と距離をとりはじめてしまうこと。
しかしこの三人の繊細な感情の変化が、少しもグロテスクではなく、むしろ純粋で真摯で、甘美にすら思えるのは、「わたしたち」に読者である私も感化されてしまったからなのだろうか。
あくまで「わたしたち」の妄想を交えた三人の関係を追いながら、私は改めて、「家族」の中での肉体というものについて、考えることになった。
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