久々に読み返したら、なんとも新鮮だった。たしょう初々しい感じもするが、すでにここには、その後の白石作品の特徴がいくつもあることがわかる。その辺を語るには、近年の白石作品からはじめよう。
まずは、近年の白石一文の小説の中でもっとも挑戦的で、もっともロマネスクな『記憶の渚にて』(二〇一六年)から語りたいと思う。
この小説は、ある兄弟と宗教団体にまつわる話で、ある一族の数奇な出会いと別れと再会を大きなスケールで劇的に、まことに精緻に描いている。白石一文は抜群のストーリーテラーであり、三部構成の第一部はとりわけ怒濤の展開をたどり、いつにもまして物語は奥行きが深いけれど、中盤からは主題である「記憶」をめぐって思索が繰り返され、前世の記憶とは何か、生まれ変わりとは何か、そもそも「私」とは何かを問いただしていく。この波瀾に富むストーリー展開と、強力なテーマ把握が素晴らしい。文中に出てくる「世界は一冊の分厚い本である」という言葉そのままの壮大な長篇小説であり、世界的な海外文学に比肩する傑作といっていい。
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