それから様々なことがあった。その末に、頼朝と政子は「鎌倉をこの国の中心にする」、すなわち「武士の都を作る」という夢を実現した。しかしその過程にあったことは、決して楽しいことばかりではなかった。否、楽しいことなど一つもなかった。
そして建久十年(一一九九)一月、二人の旅にも突然の終わりが訪れた。頼朝が落馬した末、帰らぬ人となったのだ。
それまでの頼朝の苦しみを知る政子は、かつてのように怜悧な顔つきで横たわる頼朝に、「お疲れ様でした」という言葉を掛けた。
だが政子の戦いは終わっていなかった。頼朝と共に築き上げた武士の都を守り抜かなければならないからだ。
「たった今、息を引き取りました」
法印の言葉に、政子はわれに返った。
――三幡が息を引き取ったのか。
三幡とは頼朝と政子の次女にあたる乙姫のことだ。
目の前に横たわる三幡はまだ十四歳。その肌は政子に似て肌理が細かく、口元も政子にそっくりだ。
記憶の中の三幡は、いつも笑っていた。
「乙姫、母はここにおりますぞ。こっちに来なされ」
政子が呼ぶと、満面に笑みを浮かべた三幡は、覚束ない足取りで走ってきたものだ。
「尼御台様、三幡様はお亡くなりになられたのです」
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