救われたから救える。
助かったから助けられる。
わたしは無根拠で純粋な自信に満ち溢れていた。だからこそ茜に拒絶された時の苦痛は耐え難いものだった。再び暗闇に突き落とされた、そんな風にも感じた。
消沈していた頃の記憶は今も曖昧だ。そこだけノイズ混じりの空白がある。だからこの辺りを詳述することは難しい。わたしにできるのは、思い出せることを率直に、順序立てて書くことだけだ。
「慧斗」
彼方から声がした。
目を閉じている自分に気付く。
わたしは声のした方に耳を澄ました。
「慧斗、慧斗」
祐仁の声だ、と気付いて目を開いた。
クリーム色の襞のようなものが視界を覆い尽くしている。これは布団だ、日の光が透けているのだ、ということは今は昼か、それとも朝か。ぼんやりした意識の片隅で考える。
わたしは布団に包まっていた。
「起きてる?」
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