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『邪教の子』澤村伊智――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)

文藝春秋・編

くわしく
見る
「別冊文藝春秋 電子版32号」(文藝春秋 編)

 救われたから救える。

 助かったから助けられる。

 わたしは無根拠で純粋な自信に満ち溢れていた。だからこそ茜に拒絶された時の苦痛は耐え難いものだった。再び暗闇に突き落とされた、そんな風にも感じた。

 消沈していた頃の記憶は今も曖昧だ。そこだけノイズ混じりの空白がある。だからこの辺りを詳述することは難しい。わたしにできるのは、思い出せることを率直に、順序立てて書くことだけだ。

「慧斗」

 彼方から声がした。

 目を閉じている自分に気付く。

 わたしは声のした方に耳を澄ました。

「慧斗、慧斗」

 祐仁の声だ、と気付いて目を開いた。

 クリーム色の襞のようなものが視界を覆い尽くしている。これは布団だ、日の光が透けているのだ、ということは今は昼か、それとも朝か。ぼんやりした意識の片隅で考える。

 わたしは布団に包まっていた。

「起きてる?」

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年06月19日

プレゼント
  • 『赤毛のアン論』松本侑子・著

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    応募期間 2024/11/20~2024/11/28
    賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様

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