「別冊文藝春秋 電子版32号」(文藝春秋 編)

 わたしの心を抉り、鼻っ柱を叩き折った言葉が並んでいた。逆さまのウサギのイラストが、こちらに空疎な笑みを向けている。ウサギからはフキダシが出ていて、「PYON PYON HANEMASU」と全く意味のないことを喋っている。

 茜の字は稚拙で震えていた。ひらがなばかりなのは、まともに学校に通わせて貰っていないせいだろう。公園で初めて目にした時はショックを受けながらもそう理解した。

 またあの時のように涙が出るのだろうか。そこまでではないにせよ、苦しくなるだろうか。わたしは覚悟して手紙を読み返した。彼女との出会いを、一方通行の会話を思い出した。母親との嚙み合わない遣り取りも、二階の窓に見えた茜の顔も。

 改めて手紙に目を向ける。

 湧き上がったのは悲しみでも苦しみでもなく、違和感だった。

 おかしい。

別冊文藝春秋からうまれた本