- 2020.08.15
- インタビュー・対談
「独裁者」か「庶民派」か。最新資料で読み解く東條英機の素顔
聞き手:文春新書編集部 (文春新書編集部)
定説をくつがえす本格評伝「東條英機」を執筆した一ノ瀬俊也に聞く。
ジャンル :
#ノンフィクション
「冷酷無比な独裁者」「無思想な権力者」「天皇を守った忠臣」など、さまざまな評価がある東條英機の生涯を「総力戦時代の指導者」として再検証。イデオロギーを排除した新しい東條像がここに描かれる。
――戦後75年の今年上梓した『東條英機』が、注目されています。本書を書くきっかけを教えてください。
一ノ瀬 東條は陸軍の中で順調にキャリアを重ねた人物で、太平洋戦争の開戦時には首相、陸相にまで上り詰めました。戦争に負けてからは東京裁判で裁かれましたが、その時には日本に陸軍は無くなっていた。つまり、彼の生涯を見ることは昭和の陸軍の全体を書くこととイコールであると考えました。
さらに付け加えますと、保阪正康さんが書かれた重厚な東條の伝記『東條英機と天皇の時代』が、書かれてから40年ほど経ちました。その間に新しい史料が公開されています。さらに、軍事史研究も進み、その成果などを盛り込みながら、新しい東條英機の姿を描けるのではと考えました。
――東條英機は、終戦直後から、戦争の責任者として、批判される存在であり続けています。その一方で、東京裁判での国家擁護や昭和天皇を守ろうとした発言であったり、アジアから欧米の力を排除しようとした点を高く評価する人もいて、両極端な見方をされていますね。
一ノ瀬 本書では非難か、顕彰かの二択にならないように気を付けました。東條英機が何を考え、その時々において、どのような選択をしたのかを史料に基づいて明らかにしたつもりです。若いころから東條の発言や行動を丁寧にみていくと、大きな世界認識や国家像を語ってはいないことがわかります。良くも悪くも、現実的な人だったのではないかと思っています。
――東條英機と比較される石原莞爾は、根強い人気がありますね。
一ノ瀬 石原莞爾は天才肌のところがありました。たとえば、東條のように地道な活動で陸軍のための予算をとってくるような努力ができない人だったと思います。さらに石原は自分の考えを理解できない人が悪いと考えてしまう。陸軍という大きな官僚組織のリーダーには向かないタイプだったのかもしれません。
では、東條がリーダーに向いていたかといえば、いろいろな意見があると思います。ただし当時の陸軍にとっては、必要な人間であったことは確かです。東條は予算を取ってくること、自分たちの主張を通してくる能力が非常に長けていました。それは恫喝的な交渉を含めてです。さらには、中国に対しても強硬な姿勢を崩さなかった。個人の考えを押し付けるよりも、陸軍としての利益を第一に考えていた点から、組織内で生き残り最終的にはリーダーになったのです。
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