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「独裁者」か「庶民派」か。最新資料で読み解く東條英機の素顔

「独裁者」か「庶民派」か。最新資料で読み解く東條英機の素顔

聞き手:文春新書編集部 (文春新書編集部)

定説をくつがえす本格評伝「東條英機」を執筆した一ノ瀬俊也に聞く。


ジャンル : #ノンフィクション

『東條英機』(一ノ瀬 俊也)

――本書で、詳しく書かれたのは、東條と飛行機、そしてメディアの存在です。東條自身はメディアとどのように付き合っていたのでしょうか。

一ノ瀬 そこも東條個人というよりも、日本陸軍全体の問題だったと思います。第一次世界大戦で、陸軍が学んだのは宣伝の重要性でした。総力戦とは国家が一丸となって敵と闘うという考え方ですが、それには、国民の協力が不可欠でした。

 もし、国民の協力が得られないとどうなるのか。第一次世界大戦中にロシアでは革命が起き、ドイツでも厭戦気分が高まり結果的に戦争に敗北しました。この状況は、昭和陸軍の指導者たち共通の課題になりました。「国民の協力がないと総力戦に負ける」と考えのです。それが、メディア利用につながっていきました。

――副題には「「独裁者」を演じた男」とつけられていますが、本書では「演技」が一つのキーワードになっています。

『写真週報』(一ノ瀬俊也氏提供)

一ノ瀬 東條はパフォーマンスの軍人でした。では、その源泉はどこにあったのか、と考えました。先にお話ししたように東條は総力戦時代の申し子の一人といっていいでしょう。第二次世界大戦中の各国の指導者を見てください。ドイツのヒトラーやイタリアのムッソリーニ、ソ連のスターリンにアメリカのルーズベルト、イギリスのチャーチル……。だれもが個性的で、今でいえばキャラが立った人物ばかりです。

 これは総力戦には、強力な総帥(指導者)が必要であると認識されていたことにほかなりません。東條英機も国家の指導者となった時に、彼らのような強い総帥にならねばと考えたのでしょう。当然、天皇という存在がありますので、単純な丸写しでは難しかったでしょうが、東條なりの理解がさまざまなパフォーマンスにつながっていったのです。

――具体的にはどのようなパフォーマンスを行ったのでしょうか。

一ノ瀬 東條の「総帥」理解とは、庶民の生活のいろいろなところに気を配るというものでした。それが、本書の巻頭に記したごみ箱の確認です。東條は視察に出かけた先で、民家のごみ箱を開けて、何が捨てられているのかをチェックしていました。簡単にいってしまえば、残飯が多ければ、それだけ食料は豊かだといえます。

 当時からその行為は批判の対象であり、現在でも東條の「小者」ぶりを現すエピソードとして語られています。私はここに東條英機の「総力戦への認識」が凝縮されていると思います。そこには、東條なりの総力戦への思想があったのです。それを陳腐というのは簡単ですが、各国で国民の士気を上げるために様々な取り組みが行われていました。日本では最もお金も手間もかからない取り組みとして、水戸黄門のように庶民の中に分け入って民情を調べるという姿でした。

――書き終えて東條についてどのように考えておられますか。

一ノ瀬 「東條英機とは何者なのか」と問われたら、昭和陸軍の課題を一番理解し、それを陸軍に沿った形で忠実に実行しようとした人なのではないかと思います。だからこそ、東條の歩みを知ることは、第一次世界大戦後から第二次世界大戦の日本の戦争の歴史を知ることだと考えたのです。東條個人の人生に興味深い点もありますが、私としては時代背景や陸軍の動きを重視して本書を記しました。

文春新書
東條英機
「独裁者」を演じた男
一ノ瀬俊也

定価:1,320円(税込)発売日:2020年07月20日

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