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身体に潜んで、絶体絶命のときに我々を導いてくれる『歎異抄』その成立背景と謎に迫る

身体に潜んで、絶体絶命のときに我々を導いてくれる『歎異抄』その成立背景と謎に迫る

釈 徹宗

『歎異抄 救いのことば』(釈 徹宗)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『歎異抄 救いのことば』(釈 徹宗)

『嘆異抄』の中に、「唯円」という人の名が二度出てきます。唯円は、大変才能溢れる人だったという記述も残っており、きっとこの人が著者だろうと推測されています。現在は、この河和田の唯円説に収まっていて、何か新しい史料が出てこない限り動かないという状況です。

 ただ、唯円という名前の人は『親鸞門侶交名牒』という、親鸞のグループの名前を書いたものの中に、四人登場します。いったいどの唯円なのかという論点もあります。河和田の唯円説が一番の主流であり定説ですが、鳥喰の唯円だとする説もあります。この人はどんな人かよくわからなくて、名前だけが残っています。鳥喰の唯円ではないかという学者もいるし、河和田の唯円も鳥喰の唯円も同一人物じゃないかという説もあり、その辺もわかりません。もともと現在の茨城出身だった河和田の唯円ですが、奈良の吉野で往生したと言われています。

「大切の証文ども」はどれ?

 もう一つ、謎を紹介します。「後序」には、「大切な証文を添えました」と書かれているのですが、この大切な証文がなんのことかわかりません。

 唯円説を唱えた了祥の『嘆異抄聞記』には、「こう書いてあるものの、紛失したんだろう」との説をあげています。梅原真隆(※一八八五~一九六六年、浄土真宗の僧侶・仏教学者。主著に『御伝鈔の研究』)、石田瑞麿(※一九一七~九九年、仏教学者。主著に『親鸞とその弟子』『教行信証入門』)など現代の研究者の中にもこの説を支持する人がいます。

 歴史学者の古田武彦(※一九二六~二〇一五年、古代史、親鸞を中心とする中世思想史家。主著に『「邪馬台国」はなかった』『盗まれた神話』)がとった説も面白い。「『嘆異抄』の最後に添付されている流罪記録、これが大切な証文じゃないか」というのです。

 中世の頃は、流罪記録のようなものを「証文」と呼んだらしい。流罪記録には「(流罪に関係する)書状は今も外記庁(=役所)に納められている」との添書きがあります。この書状は、現在、見つかっていないそうです。

文春新書
歎異抄 救いのことば
釈徹宗

定価:1,122円(税込)発売日:2020年10月20日

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