――名司生さんは、装画のお仕事は本当にはじめてだったんですか?
名司生 私がもとから描いていた絵にお話をつけてもらったことはありますが、小説を読んで絵にする、というお仕事ははじめてです。はじめていただいたお仕事がこんな、びっくりな規模でいいのかなと。
阿部 最初は、編集者さんから名司生さんのこれからのお仕事のスケジュールを聞いてもらったんですよね。そのころには既刊6巻の新カバーと、文庫・単行本の新刊2冊のカバーをお願いするということが決まっていたので、スケジュール的に大丈夫かなと思いまして。
名司生 そのときはまだ阿部さんの名前も八咫烏シリーズの名前も出ていなくて、「今年のご予定は?」と聞かれて(笑)。あんまり暇だと思われるのもなんだな、でも「詰まってます」も言いたくないなあ、と思いつつ、常にお仕事は募集中ですとお答えしました。
阿部 我々としてはぜひやっていただきたいんだけど、スケジュールとか、ご本人のお気持ち的にはどうなんだろうか、ということが気になっていました。突然、大量の本を読んでいただくことになるじゃないですか! 読むことが苦にならない人じゃないとダメなんじゃないか、と思ったり……。本当に引き受けていただけてよかったです。
――これからの八咫烏シリーズのビジュアルイメージを名司生さんにお願いすることが決まって、最初の打ち合わせは対面でされたんですよね。その時の印象はいかがでしたか?
阿部 まず、八咫烏シリーズのプロモーションに使うキービジュアルを描いていただくことになったのですが、名司生さんが打ち合わせにイメージスケッチを持ってきてくださったんですよ。それもめちゃめちゃ素晴らしかった。
名司生 若宮と烏のスケッチとか、四姫の部屋を描いていったんですよね。『烏に単は似合わない』の描写がすごく素敵だったので。
阿部 名司生さんには、まず『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』を読んでいただいたんですが、まだ打ち合わせ前なのに作品世界を的確に掴んでいただいていてびっくりしました。
名司生 『単』は最初、少女漫画を読んでいるつもりだったんですけど、途中から、あれ、これ少女漫画じゃないな? という展開になってきて……そこからは手が止まりませんでした。登場人物の衣裳とか、きらびやかな建物とか、知識がないなりにすごく頭に浮かぶんですね。これが文章力っていうんでしょうか。さすがプロ! と思いながら読みました。
『単』は最後ミステリーで終わって、そのあと『主』と読み進めると、またぜんぜん毛色が違っていて。でも毛色が違うのに『単』の世界と重なっているのが本当に面白いですよね。
阿部 ありがとうございます。なんだろうね、嬉しいんだけど、目の前で褒められると(笑)。ちなみに、このあとは新型コロナの影響で打ち合わせがすべてオンラインになってしまったのですが、最初のイメージビジュアルの時点で名司生さんの八咫烏シリーズへの深い理解に「間違いない!」と思っていたので、不安はありませんでした。