二人の刑事の信念を伝えたかった
――逆に書いてみて面白かった点や調べていて興味深かった点について教えてください。
坂上 この頃の大阪を調べていくと、のちに有名になる政治家や小説家、脚本家などが無名時代を過ごしていたことが結構わかりまして、『インビジブル』でも彼らをモチーフにしたキャラクターを出すことができて非常に楽しかったです。
また舞台となった昭和29年が、戦後史を考えるうえで分岐点になっていたことが調べていくうちにわかってきました。『インビジブル』でもその歴史の変わり目ということを意識して書いたつもりです。
――具体的にはどういったことが挙げられますか。
坂上 主人公たちが関わるところでは昭和29年の警察法改正によって、自治体警察と国家地方警察の2本立てが解消されて、現在に繋がる都道府県警察という体制が生まれます。また作中でも少し国会が出てくるのですが、この翌年には自由民主党と日本社会党という二大政党による55年体制がはじまります。あるいは「もはや戦後ではない」と経済白書に書かれるのは昭和31年のことですし、政治や経済の面で混乱期を脱して、今に繋がる日本がスタートした時期だなと思っています。
――『インビジブル』の面白さのひとつに中卒の叩き上げ・新城と帝大卒エリート・守屋のバディの魅力があると思います。この二人はどのように生まれたのでしょうか。
坂上 大阪市警視庁という当時の時代状況が生んだ組織について良いこと、悪いこと、様々な思いを抱いている若手の警察官は出したいと思っていました。一方で、彼らと対立する国家地方警察を代弁する人間として、ある意味古いタイプの人間を出して新城とぶつからせて対立させることで、それぞれの信念を読者に伝えたい、そして二人の変化を通じて今につながる警察が生まれてくる過程をお見せしたいと思いました。
次は大阪万博を書いてみたい
――投稿作だった『へぼ侍』と2作目『インビジブル』で執筆にあたっての変化はありましたか。
坂上 『へぼ侍』はそのとき自分の興味のあったテーマを腕試しのつもりで、ある意味気楽に書いたら評価をいただけて非常に驚いたのですが、『インビジブル』は一度評価を受けた状態から前作を超える作品を書くことを周りからも期待されましたし、何より自分でももっと上手く書きたいという思いがあったので非常に大きなプレッシャーもありましたし、良い経験にもなりました。
――坂上さんが物語を作るうえで大切にしていることを教えてください。
坂上 物語の最後に待っている結末、そこに至るための展開や伏線など作品で語られるすべてに無駄がないように、主人公にとって何かしらの意味があるようなものにするように書いていこうと心掛けていました。
――7月に『へぼ侍』が第9回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞しました。今後の作品を楽しみにしている読者に向けて、これから書いていきたいテーマを教えてください。
坂上 『へぼ侍』では近代の始まりの大阪、『インビジブル』では戦後の始まりの時期の大阪を書きましたので、大阪の戦後の終わりを書きたいと考えています。やはりそれは1970年の大阪万博じゃないかなと思いますので、その時期を書いてみたいですね。
また今回、大阪市警視庁という今はない警察組織を書きましたが、もう一つ、かつて存在していた警察組織として琉球警察という、沖縄がまだアメリカ統治下だった時代に本土の警察とはまったく別に作られた警察組織を舞台に書いてみようといま準備しています。
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