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松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」

松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

「松山大耕×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.2[完全版]

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

オンラインで坐禅指南

小川哲さん
作家。1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。18年、『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞受賞。19年、『嘘と正典』で直木賞候補。

小川 しかし、この広大な庭に誰もいないというのは壮観だったでしょうね。参拝の方はいつぐらいから減りましたか?

松山 三月の時点で、前年と比べて八割ぐらいになったでしょうか。四月はもうほとんどいらっしゃらなかった。特に後半はもうどなたも。六月からまた少しずつお越し頂いてますが、修学旅行生や団体の方がいらっしゃらないので、いつもの六~七割ぐらいですね。

小川 その間、松山さんはどうされていたんですか。

松山 やっぱり、檀家さんをはじめ、みなさんの心の健康が心配だなと思って。あまりにも急激に世界が変わってしまったし、ふさぎ込んでしまう方もおられるだろうと、おうちで出来る坐禅指南の動画をつくって配信しました。日本語と英語と二種類つくってYouTubeで公開したのですが、あわせて数万回再生されていて、驚きましたね。そんなに見てくださるのかと。

小川 いいですね、僕もやってみたいです。

松山 あと、「リモート修学旅行」と称して、オンラインで中学生、高校生のみなさんのお悩み相談会もやりました。大人にだって解決の仕方がわからないことばかりが起きてる状況で、子どもたちこそ不安だったはず。このときは、リーマン・ショックのときにリーマン・ブラザーズで働いてた私の友人も呼んで二人でお答えして。

小川 なるほど、まさに大きなショックの時に、渦中にいらした方に加わってもらって(笑)。

松山 そうです、荒波に揉まれた経験がある人の言葉には説得力がありますから。学校では通常、例えばアスリートを呼んで、「自分はこうやって努力して成功しました」とか「夢は見るもんじゃなくて叶えるもんだ」みたいなメッセージをもらう機会のほうが多いと思うんです。でも自分がどれだけ一生懸命でも、現実には不可抗力なこともある。突然大波に呑まれるみたいな。そういうときにどうしたらいいのかというのは、聞く機会がないだろうなと。

 私は、宗教の基本的な役割は「不安をなくすこと」だと思っているんです。だから、子どもたちにも、「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こういうときにはこういう心がけをしたらいいんだ」と気づいてもらえるような機会を増やしたいと思っていました。

小川 僕も、松山さんがかつてお出しになったお悩み相談本を拝読したんです。面白いなと思ったのは、ある悩みに対して「こうするといいですよ」とか「こうすると物事は解決しますよ」という答えの他に、「それは悩みじゃないんですよ」「そもそも気にしても答えが出ないことなんですよ」という答え方をされていたこと。

 例えば「コロナで学校の行事がなくなっちゃった」と嘆いている子に対して、じゃあサッカーの試合ができるようにしてあげよう、運動会ができるようにしてあげよう、なんて、大人にだってできませんよね。むしろ、嘆き悩んでいるその子に、自分の努力によって解決できない問題が立ちはだかったときにそれとどう向き合うか、悩みの一段階深いところに向けて答えておられるなと感じました。

松山 たしかにそこは意識しているかもしれません。自分が悩んでもどうしようもないことというのが世の中にはありますでしょう。身近な例で言うと、「明日の運動会、雨が降ったらどうしよう」とか。これはいくら悩んでもどうしようもない。例えばダイエットをしていて「このご飯を食べるか、食べないか」という場合、それは自分で決断できるし、なんとでもなる。でも天気や天災に対しては、備えはできるにしても、いつ来るかというのは誰にも分からない。そういう、自分の努力でどうにもならないことに対する漠然とした不安を抱えてしまったときにどうするか、それを考えていきたいなと。

小川 わかります(笑)。僕は今年の初めに直木賞の候補になったのですが、選考会の前日、柄にもなく緊張してしまって。でも、賞の結果は選考委員の先生が決めることですから、僕が緊張したところで意味がない。大学入試や大事なスポーツの試合の前に緊張をコントロールするというのとは話が違う。

松山 まさに、大事なのは心の持ち方のほうなんですよね。最近私は医学系の学会によく呼んでいただくのですが、先日、循環器内科学会にお邪魔したときも心の持ち方が大きなトピックになっていました。例えば、「薬への依存」という問題について。不眠の人に睡眠薬を処方すると、「飲んだけど眠れない」という患者さんが出てくる。そこでさらに強い薬を処方する。それでも眠れない。そうしてどんどん服用量が増えていって、まさに依存症になっていくわけですよね。でもちょっと待って、と。昼間診察に来た患者さんに、「夜眠れない分、いま眠いですか?」と訊くと、「いえ、眠くないです」と答えるそうなんです。じゃあ、それでいいじゃないですか、と。結局薬を飲む飲まない、効く効かないより、実際にはどうなんだ、というのが大事であるとしっかり伝えることのほうが大切なのかなと。

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