- 2020.10.01
- インタビュー・対談
サイゼリヤでバイトする“異色の一つ星シェフ”が、いま絶好調な理由とは? コロナ時代をタフに乗り切る異才に、注目のSF作家・小川哲が迫る
聞き手:別冊文藝春秋
「村山太一×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.1[ダイジェスト]
サイゼリヤでバイトする“異色の一つ星シェフ”が話題だ。
コロナ禍で大きな変革を迫られた飲食業界にあって、いち早く行動を開始した村山太一さんが試してきた秘策、そして、新たに抱いている展望とは?
別冊文藝春秋ライブトーク第1弾を活字化してお届けします。
※2020年5月28日にTwitterライブ&Zoomウェビナーにて配信した動画本編はこちらでご覧いただけます
https://youtu.be/-vqx5o3cR7o
このままじゃ誰も幸せになれないと思った
小川 目黒駅から歩いてすぐ、一つ星のイタリアンレストラン「ラッセ」にお邪魔しています。緊急事態宣言が解除されて、今日で三日目です。どうでしょう、お客さんは戻ってきてますか。
村山 まさかまさか。いまは、ディナー帯でも一日に三組のお客様しか受け付けてませんし、三月以前の状況に戻るにはもっと時間が……いや、もう、まったく同じ形には戻らないんじゃないですかね。
小川 そもそも村山さんは、コロナ禍以前からレストラン経営の「構造改革」のための取り組みを行ってきたと聞きました。その甲斐あって、三月の東京都の外出自粛要請から始まって、四月に緊急事態宣言の発令と、それにともなう飲食店への営業自粛要請があった後もすみやかに手を打つことができたと。
村山 そうですね。飲食店って、ものすごく脆弱な基盤のうえに成り立っている商売で、僕はそれを変えたいと思ってきました。だって、飲食店のひと月の平均利益率って一〇%しかないんです。コロナ騒動で飲食店の閉店が相次いだのも無理のないことで、何かあったらひと月、ふた月という短期間でも耐えられない構造になってしまっている。
小川 そこに危機感を抱いて、経営者が書いた指南本に数多くあたったり、イタリアンチェーン「サイゼリヤ」にノウハウを学びに行ったりするに至ったわけですか。
村山 その通りです。
小川 三月三日にnoteで公開された村山さんのインタビュー記事「目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。」。あれは衝撃でした。二〇一一年に開店してから、ラッセは九年連続でミシュランガイドの一つ星を獲得しています。にもかかわらず、三年前から村山さん自ら、サイゼリヤでアルバイトをしているというお話で。ラッセを運営していく中で、このままではまずいと思うことがあったということですよね?
村山 そうですね。というのは、料理人って料理ばっかり学んできてるんですよ。僕も、料理については一生懸命勉強したけど、経営のノウハウなんて学んだことがなかった。財務諸表の見方だってよく知らなかったんです。飲食業界って、足りないところは全部、従業員の長時間労働で補ってなんとかしていくっていう、ある種の強引さで成立させてきた商売だから、どこに無駄が発生しているのか、経営的な負荷がかかっているのか、そういうことを特定する習慣があまりない。やみくもに売上増を目指して働きまくる体制では、自分も含めみんな疲弊していって、誰も幸せになれないんじゃないかと思ったんです。