- 2021.02.15
- インタビュー・対談
松山大耕(僧侶)×小川哲(作家)「ウィズコロナ時代の心との向き合い方。常識を更新し、よりよく生きるための心得とは」
聞き手:「別冊文藝春秋」編集部
「松山大耕×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.2[完全版]
情報過多社会で心を守るには
松山 情報過多の時代は、不安も大きくなりやすいんですよね。我が家には小さい娘が二人いるのですが、妊娠中、妻がとにかくGoogle先生を頼りにしていて。ネットには出産に関して怖いことがたくさん、たとえば最悪のケースについてこれでもかと書いてあるんですよ。どんどん妻の不安が膨らんでいってしまって。情報によってむしろ不安があおられてしまう。現代社会においては、氾濫する情報といかに付き合っていくか、これがすごく大事なことだと思います。
小川 仰る通りだと思います。それでも、無視するのも難しい。
松山 そうですね、だからこそ、判断力を磨いていく必要があるのかなと。いま、他人の評価をものすごく気にしてしまう、そういう方が増えていると思うんです。レコメンド機能に左右されるひとも多い。かくいう私もAmazonで買い物をするときなど、「これを買った人はこれも買ってます」「この本を買ったら次はこれ」なんていうサジェストについ従ってしまい、気がついたらカートがいっぱいになっていることが結構あって。私たちは、提案してもらうことに慣れ過ぎているんですよね。
「食べログ」などの評価機能にも同じことがいえると思うんです。退蔵院にはお茶席がありまして、そこではお抹茶とお菓子をお出ししています。それが「食べログ」で、ラーメン屋やイタリアンレストランと並べて点数が付けられているわけです。「いや、比べられへんやろ!」と言いたい。私たちは、スコアリングとかアルゴリズムに知らないうちに毒されてるんだと思います。自分で決める力、自分のセンスに自信を持つ力が、社会全体で弱まっているような気がしてなりません。
小川 僕も、友人や家族と食事に行くときに「食べログ」で何点だったからとお店を指定されるより、「俺のおすすめ」と言われたほうが断然うれしい。正解を求めて食べに行くのではなく、そのひとの顔が見えたり、好みが伝わってくることのほうが何倍も楽しいんだっていうことを、もっともっと口に出していくべきなのかもしれませんね。
松山 私も、トレーニングじゃないですけど、地方の学会とか講演会に呼ばれて初めての土地なんかに行きますとね、直感だけでお店を選んで入ってみたりします。レコードのジャケ買いみたいに、「看板からそこはかとなくおもしろそうな気配が伝わってくるな」とか、「この雰囲気なんか惹かれるな」とか。そうするとね、やっぱり面白いおかみさんがいはったりするんです。そういう日常的に自分の直感を試すような、楽しむようなことをしていたほうがやっぱりいい。
小川 本当にそう思います。だって、入ってみてそこがあんまり美味しくなかったとしても、それもまたいいじゃないですか。失敗したって全然いい。ひとつ思い出が増えたと思えばね。
松山 そうそう、話題がまた増えたって思えばね。ちょっと前に、あるワークショップで、京都大学の学生さんから「大学の授業が全然面白くない」という相談を受けたんです。「こんなことしてても、社会に出てから何の役にも立たないだろうし、それならたくさんアルバイトをして、社会経験を積んだほうがいいと思いませんか」と。その時、思い出したのが、私が学生時代に受けていた講義のことだったんです。「応用きのこ概論」というもので。
小川 あ、僕もそれ取ってました!(笑)
松山 なんと小川さんも(笑)。あれ、けっこう難しいでしょう? 化学式ゴリゴリの、ちゃんとしたサイエンスの授業でね。でも、講義名から受ける印象もあって、興味本位でみんなやってきて、最初は大教室がいっぱいになる。
小川 そうそう、大人気でしたよね。
松山 でも、私が取ってたときは、月曜日の一限だったというのもあるけど、どんどんひとが来なくなって、最後、四人になったんですよ。だんだん怖くなってきてね。自分が脱落したら、次の授業、先生ひとりでやることになってしまうかもと俄かに責任感が生まれてきて、とりあえず最後まで受けたんです。
小川 松山さん、えらいです……。僕、脱落組です。