彼自身が意識して書いているのかはわからないが、本作には後々どこかで引用したくなるような含蓄ある言葉がいくつもちりばめられている。
「ゲテモノ系の食品は『何を食べたか』が常に話題とされるが、私の経験では、『どうやって』が重要だ」
「私の百戦は『錬磨』でなく『連敗』だ(中略)何度も同じ間違いをするのが私の特徴だ」
「(カンさんが)まるで野蛮人のように見えた。私も長らくゲテモノを食ってきたが、食べられない人からはこのように見られていたのかと初めて思い至った」
そして、極めつけは「はじめに」の冒頭にあるこの言葉だ。
「子供の頃から胃腸が弱く、好き嫌いも多かった」
要は最初から敗北を宣言しているのだ。それでも、特殊漫画家の根本敬さんの言葉で言えば、「でも、やるんだよ!」、高野さんの場合は「でも、喰らうんだよ!」だ。(時に疑問符付きの)美味そうなものを前にして、胃腸の弱さなど気にしてはいられないほど、高野さんは業が深いのだ。
「見たらわかるでしょ! そんなの食べたら死んじゃうよ‼」と歌舞伎町の中華料理店で年齢不詳な美人店長に言われても、その前に口に入れてしまっているのだから仕方ない。
ところで、今年はコロナ禍に覆われた前代未聞の年となった。頻繁に行ってきた海外取材をインプットの場、同時に息抜きの場としてきた僕や高野さんにとっては本当に厳しい試練の時だ。そんな中でも彼は素早い動きを見せた。インターネット上に「高野秀行辺境チャンネル」を開設し、仲間たちを巻き込んで有料の動画配信サービスをスタートしたのだ。毎回、これまでの著作一冊ずつにフォーカスし、本に載せられなかったことも写真や動画を使ってオンライン番組にするそうだ。
実は僕もこの9月から中東料理教室や長年取材してきた写真や動画を用いたワールドミュージックのレクチャーを行う会員制のオンラインサロンを始めたところだ。こうした有料のウェブサービスがフリーランスの物書き(要はグルメ作家? って、くどい?)の生活にどれほど貢献するかは未知数だが、コロナウィルスの収束が見えない限り、何か新しいことを始めないわけにはいかない。
最後に僕から高野さんに一つ提案がある。それは辺境メシのプロデュースである。「ライムとミョウガとゆずが合わさったような」タガメソースで和えた冷奴や、缶ビールでアヒル肉を炒める啤酒鴨、カエル丸ごとジュースなど、ぜひ日本でも食べられる場所を作ってもらえないだろうか。
「ヤバそうだからぜひ食べたい」のだ!
2020年9月14日
(DJ/中東料理研究家 www.chez-salam.com)
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