読み終えると、巻頭カラーページに登場するボロボロの野球帽を被った高野さんの顔が、まるでハリソン・フォードが演じるインディ・ジョーンズのように見えてきた……と言うのは錯覚か、褒め過ぎか?
ともあれ同じモノ書き(要はグルメ作家?)から見ると、高野さんの文章にはキラキラしたキャッチーなフレーズが溢れている。思えば、これまでの彼の著作は書名からして猛烈にトバしていた。
『謎の独立国家ソマリランド』、『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』、そして最新作は『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた〈サピエンス納豆〉』だ。どれも眩しいほどに響きが良い! ジョジョ風に言えば「そこにシビれる! あこがれるゥ!」だ。
ソマリランドなんて国の名前を日本全国の本屋さんの平台で目にしたのはあの本が最初(で最後?)では? 在日ソマリランド大使館があるなら、高野さんに国民勲章くらい叙勲すべきだ。また、納豆が日本独自の食材だと思い込んでいた石頭の国粋主義者たちは納豆の藁苞の角に頭をぶつけて死んでしまうといい!
本作でもそんな高野さんの冴えた言葉が全編にあふれている。
「素材の味を生かしすぎるタイの田んぼフーズ」
「まるで満杯のゴキブリホイホイをオーブンで焼き上げたかのよう」
「完全オーガニックなお洒落ネズミ・ランチ」
「店で出される料理としては世界で最も臭いと思われる韓国のアンモニア・スパークリング・エイ料理」
「水牛頭丸ごとプディング」「ただ脳味噌はとります(中略)酸っぱくなるから」
「もはや、ヘンな食べ物探索は私のライフワークである」
おっと、こんなに刺激的なフレーズばかり書き連ねると、高野さんがゲテモノだけを食べ続けているように見えてしまうが、中には誰が読んでも美味しそうな料理ももちろん出てくる。
タイ北部の国境近くのバスターミナルで手に入れた竹筒餅米ご飯、カオラムはココナッツミルクで炊いた餅米の爽やかな味が、まわりの風景を描いた旅情あふれる文章とともに綴られている。大久保にあるタイ料理店の名物メニュー「爆発ナマズ」も「世界のどこに出しても恥ずかしくない」との褒めよう。手前味噌だが、僕が調理したトルコのカイセリマントゥは、阿佐ヶ谷のクッキングスタジオ「コトラボ」での僕の料理教室で最も人気の高いメニューでもある。
文の端々から高野さんの行動原理がかいま見えるのも楽しい。カンボジア中部のバスターミナルで、物売りの女性たちが頭の上にかかげたザルの上に体長10㎝もある巨大グモの素揚げが山盛りなのを見つけた彼は、「思わずバスを降りた」。普通、降りないって(笑)!!
また新宿で美人編集者に案内された店で、お皿の中にチャバネゴキブリを見つけた彼は、編集者に恥をかかせないために、「何食わぬ顔をして、ゴキブリをスパゲッティと一緒に食べた」。普通、食べないって!!!
こんなブチ切れた行動原理を持つ高野さんを前にしては、自分がどうにも普通のつまらない人間に思えてしまうではないか!
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