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宮城谷氏のなかで生き生きと呼吸する、1800年以上前の異国の人物たち

宮城谷氏のなかで生き生きと呼吸する、1800年以上前の異国の人物たち

文:湯川 豊 (文芸評論家)

『三国志名臣列伝 後漢篇』(宮城谷 昌光)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #歴史・時代小説

『三国志名臣列伝 後漢篇』(宮城谷 昌光)

 宮城谷昌光氏は、全十二巻にもなる巨大な小説『三国志』を、楊震のことから始めている。楊震は高齢にして後漢の宰相までつとめた人物だが、四知という言葉で賄賂を拒否したことでも知られる。時代は二世紀の初め頃、高官への付け届けは慣習化されていたが、楊震は受け取らず、持ってきた知人に対し、あなたはこの賄賂について誰も知らないというが、「天も地も見ている、私もあなたも知っている」、誰も知らないことがあろうか、といい放った。これが「楊震の四知」である。

 この挿話は、二つのことを語っている、と私には思われた。賄賂があたり前になっている、後漢王朝の頽廃期がすでに始まっているということ。そういう時代にも、傑出した人物が現われて、少しでも正しい政治を行なおうとしたこと。この二つである。

 後漢は、劉秀(光武帝)が即位した西暦二五年に始まり、献帝が帝位を失なった二二〇年に王朝の幕を閉じた。とすると、二世紀の初めから退廃の下り坂にさしかかっていたとすれば、興隆期は百年、衰亡期も百年というわけだ。そして衰亡期にこそ、その姿を描いてみたい名臣が現われるというふうに宮城谷氏の視線が働いている。

 私たちは「なるほどそうだ」と納得し、作家がこの本でとりあげた頽廃期の七人の名臣たちの人物像を追っていくしかない。そこには、歴史の本流では描き尽くされなかった人間の実像が、生きて呼吸しているに違いない。

 

 作家はまたこんなふうにもいっている(「オール讀物」二〇一八年四月号、ブックトーク欄)。

「どの人物も非常に興味深いのですが、特に最初に登場する何進(かしん)に関しては気合いが入りました」と。母親の興氏の命がけのようなたくらみが功を奏し、奇蹟的にも妹が掖庭(えきてい)(後宮のような場所)に入り、さらに奇蹟的にもその妹が霊帝の寵愛を受けて男子を産んだ。何進は宮廷に辟されて郎中(宮殿警備の宿直)に任命された。それが熹平四年(一七五年)のことである。

 ちなみにいえば、何進の家は肉屋である。父親が再婚して母親の興氏が女(むすめ)を産んだのだから、後に何皇后になったひとは異母妹にあたる。

 郎中に任命された何進には何がしかの才覚があったのだろう、思いがけないほど順調に出世し、やがて侍中に、ついには大将軍にまでなった。折しも中平元年(一八四年)に黄巾の乱が始まり、何進は首都の防衛をまかされるのである。

三国志名臣列伝
後漢篇
宮城谷昌光

定価:803円(税込)発売日:2020年12月08日

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