長編小説と短篇小説の書き方は違うのか!?
――偏愛する一冊で挙げてくださった作品の多くが長編小説でしたが、執筆する際、長編と短篇の違いはありますか?
澤田 どっちも楽しいですよ。料理の仕方が違う感覚でしょうか。三日間煮込むビーフシチューと、さっと作るカルパッチョの違いですね。
木下 デビューがオール讀物新人賞という、短篇の賞だったので、最近まで長編に苦手意識を持っていました。
谷津 木下さん、一時期、長編を悪役に見立てて、ご自身を“タンペンジャー”と名乗ってましたよね(笑)。
天野 初対面のとき、「長編小説ってどうやって書くんですか?」って聞かれた気がする。
木下 そうでしたね(笑)。いまも長編は勉強中です。
川越 逆に、僕は長編の松本清張賞でデビューしたので、短篇はいまでも七転八倒というか、四苦八苦というか……。書くことは好きだから両方とも楽しいんですけど、短篇を書けるようになりたいという思いは強いです。
谷津 短篇のほうが筆が止まりますね。何を書くべきかで悩んじゃうんです。物語を作るうえで、絶対に必要な工程がいくつかあって、短篇の場合は「あれっ、もうここの工程の部分を書かなきゃいけないの!?」となってしまいます。
天野 僕も長編のほうが好きかな。短篇ってだいたい締切がすぐそこにある場合が多いでしょ。長編は手元に置いていられる時間が長いから、ずっとこねこねしていられる。
今村 長編だと、いくらでも引き延ばせそうな気がする。書こうと思えば、原稿用紙三千枚とか四千枚でもいけるから。
川越 たしかに、終わらないなっていうときありますよね。一生書けるような気持ちになることがあります。
今村 短篇はゴールが見えているのが大きい。長編の場合、編集者から「六百枚くらい」と発注を受けることが多いんやけど、最近は六百枚で終わらなくなってしまう。ちなみに、みんな長編を書くとき編集者からどれくらいの枚数の長さまでならOKって言われるの?
木下 五百枚から六百枚かな。
谷津 同じく。直接は言われないけど、六百枚くらいで終わらせてねって雰囲気は感じられる。
天野 僕は千枚くらいかな。
今村 そんな多いん!?
澤田 デビュー作の『孤鷹の天』(徳間文庫)は元々、千四百枚くらいあったんです。でも、編集者に「削ってください」と言われたから、結果千二百枚くらい、ソフトカバー二段組で出版したんですね。そうしたら広告かなにかで、「千枚の大作!」と、本当の枚数より減らした数字を打ち出されました(笑)。
今村 分厚い本になると、どうしても一冊当たりの定価が上がっちゃうからね。「これ以上書くとなると上下巻になってまうな」とかやっぱり考えてしまいます。僕の場合、松永久秀を描いた『じんかん』(講談社)があまりにも分厚かったからか、SNS上で「筋トレ用ですか?」「もはや凶器」とかいじられました(笑)。
天野 タイトル変えて上下巻にすればいいんじゃない?
谷津 『じん』と『かん』で出すとか(笑)。
今村 いやいや(笑)。上下巻って、大御所しか許されないイメージがあるんですよ。読者としても下巻までなかなかついてきてくれへん気がする。だから、なんとか一冊でおさめられる枚数で書こうと考えてしまいます。
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