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歴史小説はこんなに面白い! 前編

歴史小説はこんなに面白い! 前編

聞き手:「オール讀物」編集部

天野純希×今村翔吾×川越宗一×木下昌輝×澤田瞳子×武川佑×谷津矢車

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

マイナーな登場人物たちにも魅力がある 

 ――最後に次は皆さんが偏愛する小説を教えてください。

 谷津 たくさんあるんですけど、あえて一冊挙げるなら、岡本綺堂版『番町皿屋敷』(青空文庫ほか)です。「番町皿屋敷」は「播州皿屋敷」という元ネタがあって、時代を経るごとにエピソードが付け加えられていったんですが、本作では岡本綺堂がすごくうまい読み替えをしています。内容はネタバレになるので言えませんが、「播州皿屋敷」からの流れを頭に含んだうえで読むとすごく楽しい。読み手側の教養を問う小説ではありますが、それだけに一生楽しめる本だと思います。僕は毎年、元日にこの本を必ず読むようにしてるんですよ。

 川越 書き初めならぬ、読み初め(笑)。僕が挙げたのは沖縄の戦後史を描いた、真藤順丈さんの直木賞受賞作『宝島』(講談社)です。2020年現在から見ると、歴史ものとして扱っていいんじゃないかと。その時代の人ならではの大変さが詰まっているけど、読後感が良いんですよ。

 澤田 海外の歴史を扱ったものですけれど、皆川博子さんの『総統の子ら』(集英社文庫)が座右の書です。最初は国のことなど考えず、個々の事情で頭がいっぱいだったヒトラーユーゲント(少年団)の少年たちが、当時の世の中の動きに否応なしに巻き込まれ、結果敗戦に立ち会うという、大きな流れが大好きです。皆川さんの作品は全部好きなんですが、戦前生まれの皆川さんご自身の体験が物語の中に投影されているのが本当にすごくて。

 木下 『坂の上の雲』(文春文庫)です。司馬作品ってよくよく考えると、小説として規格外な部分が多いんですね。たとえば、この作品ではロシアのバルチック艦隊が来るところを、おそらく原稿用紙百枚くらい費やして書いてるんですけど、それは延々、船底の貝殻を取る話なんですね。

木下昌輝 きのしたまさき
1974年大阪府生まれ。2012年「宇喜多の捨て嫁」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。20年『まむし三代記』で中山義秀文学賞受賞。

 今村 フジツボを取るシーンやね。

 木下 三行で済むんじゃないかというところを、膨らませるんです。そんな小説らしくないことをしてるんだけど、面白いんですよ。また司馬遼太郎で申し訳ないんですが(笑)。

 今村 木下さんが司馬作品を挙げたので、僕は池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』(文春文庫)を。池波さんがお亡くなりになって30年経つのに、いまなお愛されている。入院してるおじいちゃんも部屋にいつも『鬼平犯科帳』を積んでますから。僕自身も何度も読み返してますし、シリーズものを書くときの教科書にしています。池波さんは“鬼平”“梅安”“剣客”といった時代ものと『真田太平記』(新潮文庫)のような歴史ものの両方を書かれてる、実は珍しいタイプの小説家だと思うんですね。池波さんから小説に入ったので、僕も歴史ものと時代ものの両方を自然と書くようになりました。

 武川 村山知義さんの『忍びの者』(岩波現代文庫)の一巻は繰り返し読みました。伊賀の被差別民の主人公が恋をして、どんどん強くなろうとしていく。身分の低い忍びが、やがて武田信玄の死にもかかわっていくんですが、身分が低い人物から見た目線がすごく面白いです。この作品を読むと、歴史上で主人公にならなかった人を書きたいなという思いにさせられますね。

 天野 僕もマイナーな登場人物を扱った、北方謙三さんの歴史小説デビュー作『武王の門』(新潮文庫)を偏愛しています。南北朝時代、後醍醐天皇の息子である懐良親王が「九州を統一してこい」と派遣されて奮闘する物語ですね。知ってる登場人物がほとんど出てこないのに、文体のカッコよさやリズム、物語展開でぐいぐい引っ張って読ませてくれます。よく考えたら僕は今回のアンケートは全て、その作家のデビュー作や初めて書いた歴史小説を挙げてますね。ミュージシャンもファーストアルバムが一番いいですから(笑)。

電子書籍
本屋が選ぶ時代小説大賞2011〜2020
オール讀物編集部

発売日:2020年12月22日

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