- 2020.12.28
- インタビュー・対談
冬休みの読書ガイドに! 2020年の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】 <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
【ホラーや歴史ミステリーにも注目!】
T 辻さんをのぞけば、若い作家がどんどん出てきた印象の強い2020年ですけど、ベテランの安定感という意味で、綾辻行人さんの『Another 2001』(KADOKAWA)も面白かった。シリーズ既刊の『Another』『Another エピソードS』の内容を踏まえて書かれているので、まっさらな新作としては紹介しにくいところもありますが……。
まず『Another』の基本設定をおさらいしておきますと、夜見山という地方都市にある夜見山北中学校の3年3組では、26年前に起きた事件が引き金になって、数年に1度「災厄」が起こる。「災厄」が始まってしまうと、毎月、「現象」によってクラスメイトやその家族が次々に死んでしまうので、なんとかして「災厄」の発生を防ぎたい、あるいは始まってしまった「災厄」を食い止めたいと思うわけですね。で、呪われた3年3組には、実はすでに死んで存在しないはずの「もう1人の」生徒がクラスメイトとして紛れ込んでいる。でも、夜見山の記録や住民の記憶がこの不思議な「災厄」の力によって改ざんされていて、誰が死者なのかはわからない。その死者を見つけて殺しさえすれば「災厄」は止まる。じゃあその死者をどうやって見つけるか? ――こういうふうに進んでいくホラーミステリーなんです。
新作の『2001』は『Another』の3年後が舞台。やはり3年3組で「災厄」が起きそうな気配があり、なんとかこの1年を無事に乗り切ろうとする中3の子たちの奮闘が描かれていきます。『Another』はアニメ化もされ、アニメでフィーチャーされたキャラクターが今回の『2001』でメインの役どころを務めているのもファンにはうれしい。「災厄」が起こると、普通ではありえないような因果の連鎖で人が死ぬ――まさに「ピタゴラスイッチ」のような因果で死が発生するんですが、その死の異常さも『Another』よりさらに過激で、800ページをノンストップで読んでいくことができます。リーダビリティは抜群ですね。
司会 『Another』の「災厄」は作中で「超自然的自然現象」と名づけられていて、理由はわからないけれど、精緻なルールに則って発生するんですね。だから、3年3組の面々は、みなルールを勉強したり、経験者の先輩に教わったりしながら、なんとかして発生を抑えようと創意工夫する。「こうすれば止められるんじゃないか」と推理し、対策を考える子どもたちの真摯な科学的態度に感銘を受けるんです。ホラーはホラーなんですが、主人公たちの姿勢は、地震や台風に立ち向かう科学者のようでもある。連載は2019年完結なので、綾辻さんは新型コロナを意識して書いてはいないはずです。でも、たまたまパンデミックの年に、子どもたちが「災厄」に立ち向かうシリーズの新作が出たことで、いまの状況と重ね合わせて読む楽しみ方もあるのかな、と、これは余計な読み方かもしれませんが、感じたことをつけ加えておきます。
A 最後に、伊勢谷武さんの『アマテラスの暗号』(廣済堂出版)を紹介させてください。もともとキンドル版として出た電子書籍で、15か月連続で1位になり、全面改稿の上、紙の本として刊行された歴史ミステリーです。
主人公の日系人・賢司は元ゴールドマン・サックスのトレーダーで、日本人の父と40数年ぶりに再会しようという当日、父が何者かに殺されてしまいます。彼の父親は日本で最も古い歴史をもつ神社の宮司で、賢司がゴールドマン・サックス時代の仲間と父の死の真相を追ううちに、「日本人のルーツはどこにあるか?」「神道の正体は何か?」といった壮大な歴史の謎に迫っていくというストーリーです。高木彬光の『邪馬台国の秘密』や『成吉思汗の秘密』、松本清張の邪馬台国もの「水行陸行」など、歴史の謎を扱うミステリーの系譜というのがあると思うんですが、その流れに棹さすユニークな作品ですね。
最新のDNA解析の知見や神社の神事への詳細な取材で、大正時代から続く日ユ同祖論をリニューアルした21世紀版といったところでしょうか。正直、小説としてはウーンと思うところもあるけれど、電子書籍発の名残か本文中に写真や図表がたくさん入っていて、読者の興味をひく工夫がしてあります。歴史的な事項に関しては真面目に勉強し、勉強したことを面白く読ませてくれるので、ここでおすすめしたいと思いました。
K 著者の溢れんばかりの情熱が感じられる1冊でしたね。大雑把な括りでは、『ダ・ヴィンチ・コード』のような楽しみ方のできる本です。著者自身、ゴールドマン・サックスにいた方で、歴史の専門家ではないんです。でも、アマチュアならではの大胆な発想で、会社員時代の経験も総動員して調べたことを全部詰め込んだ観があり、この荒削りさも含め、デビュー作らしいデビュー作といえます。既存の文学新人賞からは出てこなさそうな才能が、こうやってキンドル発で登場したこと自体も興味深く、うれしく思っています。
司会 最後に思いがけない作品を知ることができました。では、いよいよ海外編に行きましょう。
【海外編につづく】
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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