テレビ番組の例であるが、2020年秋のテレビドラマの各局のラインアップが、これまでの医療モノ・刑事捜査モノ中心から、めずらしく恋愛ドラマ中心に大きく変わったという。肌のぬくもりを求めている人が多いことの一つの例示かも知れない。
あるいは、国全体を例にとると、日本の感染防止と経済活動とのバランスのとり方が興味深い。日本は、政府の政策というよりは、「人々の自粛」によって、人の動きを抑制し感染拡大を相当に防いだ(これについては、第1章でよりくわしく論じる)。そのプラス効果を考えるのである。
たとえば、これは2021年冬以降の予想の話になるが、自粛が感染拡大の防波堤となったであろう日本のよさを生かして、経済の混乱が少ない安定的な経済回復にゆっくりとつなげる。その安定とゆるやかさが、ポストコロナへの対策をとる余裕となり、自粛を活かしたポストコロナの発展への経路が描けるのではないか。
欧米では、2020年9月下旬から感染再爆発が起きている。欧州は第二波、アメリカはもう第三波である。きびしいロックダウンから早めの経済活動の再開へと大きく揺れた政策をとった国々が、そのためにかえって経済の混乱を招いている例になってしまいそうである。一方、日本でも11月から第三波の感染拡大が起きているが、欧米と比べれば、桁がまるでちがうほど小さい。たとえば、12月中旬に日本の一日当たりの感染者数が3000人を超えたという警戒的報道があるが、この同じ数字がアメリカの同じ時期の一日当たりの死者数なのだ。
世の中でとんでもない事態が起きると、人はマイナスのことばかりを考えがちだ。しかし、物事はすべて陰陽で、プラスもあればマイナスもある。プラスと自分たちの強みの源泉を深く考えて、長期的視野と大きな地図を持ってモノを考えた方がいい。このプロローグではそうした思考を抽象的にしか書いていないが、それを以下の章ではより具体的に考えたい。
本書は、コロナショックという分水嶺であえてプラス思考で戦略を考えようとする日本企業への、私からのエールである。
(「プロローグ コロナショックは日本企業の分水嶺」より)