- 2021.09.06
- インタビュー・対談
ステイホームのお供に! 2021年上半期の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】<編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
【白骨死体は誰だ? 辻村深月のすべてが詰まった1冊】
司会 辻村深月さんの『琥珀の夏』(文藝春秋)に行きましょう。〈ミライの学校〉と呼ばれるプライベートスクールの跡地で女の子の白骨死体が発見される、というのが物語の発端ですが……。
H この〈ミライの学校〉は、子どもを親元から離して田舎の自然の中で共同生活を送らせようとする組織で、かつてカルトとして問題になったこともある団体なんですね。その跡地から、死んで何十年もたった子どもの遺体が見つかったということで、主人公である弁護士の法子のもとに「あの遺体は行方不明になっている自分の孫ではないか?」「身元を確認して欲しい」と依頼がくるんです。
実はこの法子自身、小学生の頃、友人のお母さんに誘われて〈ミライの学校〉のサマースクールに参加していて、仲良くなった友人がいた。「この白骨は、自分の知っている“あの子”ではないか?」と思い、まさに自分の問題として事件に向き合っていくわけです。
章が変わると今度は時代が遡り、法子たちの少女時代が描かれていくのですけど、ここはもう辻村さんの真骨頂で、子どもたちのまなざしの繊細な描写はすごいとしか言いようがない。同時に、大人になったからこそ気づける〈ミライの学校〉の違和感みたいなところもさりげなく描かれていて、回想シーンの重層的な描写は読みごたえがあります。
司会 冒頭に「白骨死体の謎」が提示されているからこそ、読者は過去パートを読みながらも、「この中の誰かが白骨死体になってしまうんだろうな」という「被害者当て」の興味を持ちながら読んでいけるわけですね。
H はい。詳しくは明かせませんけれど、中盤、1つのセリフで世界が一変するような秘密の開示があり、これまでの辻村作品だったらここが物語のクライマックスになったかもしれないところ、そこからさらに謎の形が変わって物語が加速していきます。終盤の熱量はとんでもないですよ。
K 「子ども時代の自分」と「大人になったいまの自分」とがきちんと接続されていく展開に鳥肌が立ちました。過去の人間関係に落とし前をつけていくような最終章は、言ってほしかった言葉の応酬でしかない。
H 過去と現在の接続、ということで言うと、辻村作品の愛読者にはおなじみの趣向ですけれど、過去パートに出てくる「あの人」が、現代パートに出てくる「この人」だったの!? っていう驚きもありますよね。
『琥珀の夏』は文字どおり辻村さんの集大成的な作品で、これまで辻村さんが書いてきた要素が全部詰まっています。「家族や親に左右される子ども」を描くことで、「人は人生の何を選択できるのか」といった小説的なテーマが浮かび上がってくるのもそうだし、ミステリーのテクニカルな面でも、登場人物の名前の使い方であるとか、デビュー当時から辻村さんがこだわってきたことがこれでもかと盛り込まれている。されど既視感のない、まったく新しい印象を与える作品になっているので、昔からのファンも、初めて読まれる方にも、強烈におすすめできる1冊だと思います。
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