- 2021.09.06
- インタビュー・対談
ステイホームのお供に! 2021年上半期の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】<編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
【突然、ビックリする瞬間が……! 『邪教の子』の真の意味とは】
司会 文春の銘柄が続きますけれど、澤村伊智さん『邪教の子』(文藝春秋)も、カルト集団を描くミステリーですよね。担当のKUさんから。
KU 閉鎖的なニュータウンを舞台に、勢力を広げていく新興宗教……というヘビーな問題を扱っています。初読での衝撃を味わっていただきたいので、ネタバレにならないように慎重に紹介しますが、物語はまず、慧斗という女性が中学生時代を回想する手記の形で始まるんですね。慧斗の近所に茜という13歳の女の子が引っ越してくるんだけれども、どうも茜は親から虐待を受けていて、その母親は新興宗教にどっぷりハマっているらしい。そこで慧斗は仲間と協力して、母親に囚われている「邪教の子」=茜を助けだすという少年少女の冒険譚になっているんです。ここがまず前半。
当然、読者は「慧斗はなぜこの手記を書いてるんだろう」と疑問に思います。「誰に向けて、何のために書かれた手記なのか」と気になってきたところで、意外な事実が判明して、まず前半にひとつ大きなサプライズがある。後半になるとまた雰囲気がガラッと変わり、今度は、ある新興宗教団体を取材するテレビ番組のディレクター視点になる。慧斗の手記を読んだディレクターが元信者をつれて、ニュータウンで潜入取材をするんです。
K 本に目次がないのもうまい見せ方で、前半の手記を読んでいると、本当に突然、ビックリする瞬間がやってくるんですよ。手記の最後の1行も強烈で、まさに「来たー!」という感じ。読者の驚かせ方も洗練されていてスマートだし、「慧斗が何者なのか」がわかった途端、まだ序盤なのに、最初に戻って読み直したくなりました。
司会 手記ってミステリーの王道ですよね。慧斗は当然、ある意図をもって手記を書いているので、ニュートラルな視点ではなく、意図的に書き落とされている情報もあれば、読む人をミスリードするような記述もある。後半、ディレクターの視点で、手記の違和感が一つ一つ明かされていく展開は手に汗握るものがあります。そして、さらに……!
KU 最後の最後まで「邪教の子」という言葉の意味が二転、三転していくんですよね。澤村さんは『ぼぎわんが、来る』で日本ホラー小説大賞を受賞してデビューされた方ですが、超常現象よりもむしろ「人間の怖さ」を描いてこられた。だから宗教団体、カルト教団の作り込み方も、人間ならではの怖さをベースにしていて、とてもリアルです。これは『琥珀の夏』にも共通して言えるのですが、新興宗教や、カルトにのめり込む人たちのことを、特殊なものとして断罪するのではなく、普遍的な人間心理の発露として表現しているところも素敵だなと思います。その上で、トリックもきちんと決まっているところが『邪教の子』の魅力ですね。
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