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ステイホームのお供に! 2021年上半期の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】<編集者座談会>

ステイホームのお供に! 2021年上半期の傑作ミステリーはこれだ!【国内編】<編集者座談会>

「オール讀物」編集部

文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

【“謎を解く”ことに何の意味が?――悩む令和の名探偵たち】

K 私も『蒼海館の殺人』を面白く読んだのですが、この『蒼海館』と、今村昌弘さんの『兇人邸の殺人』(東京創元社)両方を読んで感じたのは、「令和の名探偵ってすごく悩むんだな!」ということ。昔の名探偵は「そこに謎がある! 解く!」みたいな、登山家が山に登るように自然に謎解きをするタイプも多かったじゃないですか。けれど最近の名探偵は、自分が名探偵であることに悩み、苦しみ、「謎を解くことに何の意味があるの?」と真摯に考えますよね。

『兇人邸の殺人』(今村 昌弘/東京創元社)

司会 たしかに『密室は御手の中』の探偵も、「名探偵」役を引き受けることの葛藤を乗り越えた上で、事件現場の宗教団体にやって来ています。

H 「自分が謎を解くことで、どんな作用が起きてしまうのか?」に意識的であるのが令和の探偵の特徴かもしれません。今村さんがシリーズ第1作『屍人荘の殺人』(創元推理文庫)で発明した理屈は、名探偵である剣崎比留子は「特異体質のため定期的に事件を引き寄せてしまう」というものでした。解決しないと自分の身に危険が及ぶ。だから自分が生き延びるために、名探偵しなきゃいけない――。

今回の『兇人邸』も「本格ミステリー」というものについて非常に意識的に考えた作品で、『屍人荘』以降ずっとそうですけれど、今作ではとくに「クローズドサークル」が思考の対象になっています。一つ新しい発想だなと思ったのが、『兇人邸』にはクローズドサークルから脱出するための、とある最終手段があるんですね。しかし、閉じ込められた人たちはそれを発動させない。なぜかというと「クローズドサークルの中の災厄が外の世界に出てしまうから」なんです。従来のミステリーで、閉鎖空間の内部の人が「自分たちがクローズドサークルを解くことで一般社会にどういう影響があるか?」ってことまで議論して内輪で揉めるなんてこと、なかったと思うんですよ。これが今村さん流のリアリティなのかなと思います。

『屍人荘』しかり、毎回、必ず突拍子もない設定を入れてくる書き手ですけれど、その中に「自分たち少数の犠牲で済むのなら、閉鎖空間を開けちゃいけない」と主張する人間が出てくる。一般社会だったら「中にはこういう人もいるだろうなぁ」って、妙にリアルな感じがしませんか。この「突拍子もなさ」と「リアル」の案配がすごく興味深いんです。

1985年生まれの今村さんは、新本格ミステリーを後から遡って読んだ世代だと思います。だからこそ「名探偵」とか「クローズドサークル」みたいな一つ一つについて、ちょっと距離を置いた目で、冷静に考えざるをえないんだろうと思うんです。『兇人邸』では「ミステリーにワトソン役って本当に必要なのか?」みたいなことまで主人公が悩んでいます。

K 「安楽椅子探偵は楽だ」という話も出るじゃないですか。安楽椅子探偵は周囲の人が推理に必要な情報ばかりを持ってきてくれて、それを組み立てるだけだから楽なんだと。むしろ、探偵が推理するのに足る必要な情報だけを選別できる、周囲の情報提供者のほうがずっと特殊な能力の持ち主だ、なんて、衝撃的なセリフですけど、言われてみたらそうだなあ……と。

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