第165回直木賞は選考会での激論の末、佐藤究さん『テスカトリポカ』と澤田瞳子さん『星落ちて、なお』に決定。同時受賞となった両氏の誕生日は偶然にも一日違いだったが、ふたりはどんな人生を歩んできたのか――1月19日に行われる第166回直木賞選考会を前に「オール讀物」誌上での対談を特別公開しました。
佐藤 今日は直木賞同時受賞ということでお呼びいただいたんですが、僕はよく話を脱線させてしまうので、ご迷惑にならないかと、それが心配で(笑)。
澤田 佐藤さんと私は、同じ1977年9月生まれで、誕生日が佐藤さんは13日で、私が14日と、一日違いなんですよね。生まれこそ一日違いですけど、共通点がありますかね。たとえば、どんな子供時代を過ごされましたか?
佐藤 僕にはペンキ屋の親父が居まして、中学校までずっと剃り込みを入れられてました(笑)。おかげで、その筋の息子かと思われてまして。
澤田 私たちの世代って、子供の頃は、ちょうどテレビで月曜日から日曜日までずっと時代劇をやってましたよね。私はそれらを見て、次に『銭形平次捕物控』や『仕掛人・藤枝梅安』といった原作本を買ってもらって、ずっと読んでました。あんまり学校が好きじゃなかったので、本さえ読んでいれば幸せで。
佐藤 テレビのチャンネル権とかどうでした?
澤田 うちは親が全部握ってました。だから子供時代に見たのは時代劇だけ。
佐藤 僕も親父が見ていて、テレビなんか全く見られなかったですよ。漫画も買ってもらえなかったし。
澤田 うちも漫画禁止でしたね。
佐藤 ファミコンとかはどうですか?
澤田 ファミコンもないです。ゲームは今でも全然できないです。
佐藤 じゃあ、結構厳しかったんですね。
澤田 そうですね。親が結構厳しかったので、時代劇以外のドラマは大人になってから見ました。
佐藤 それはちょっと変わってますね(笑)。僕の家は逆に、全日本プロレス中継だけは必ず見てた。たぶん時代劇を見ていると澤田さんみたいになって、全日本プロレスだけを見ていると僕みたいになる(笑)。
澤田 プロレスラーの道を歩むお気持ちはあったんでしょうか?
佐藤 スコット・ノートンというプロレスラーが居るんですが、中2のときに、彼を福岡国際センターで間近に見て、その瞬間に「あ、このビジネスはできないな」と思いました。それほど巨大でヤバかった。そこで夢破れましたね。ノートンって190センチ160キロだから、今で言うと白鵬とかとほとんど同じサイズなんです。それを中2で目の前で見て、こんな怪物と地方都市を転々としながら戦うのかと考えたら、無理だと思うじゃないですか。澤田さんはその年代のころ、もう作家になるお気持ちがありましたか?
澤田 母(澤田ふじ子さん)が作家で、むしろしんどそうに見えたから、あんまり期待はしないというか、「これだけはやるものか」みたいな気分になってました。当時の小説家の暮らしって、多分、今の私よりも生活に仕事が食い込んでいて、例えば校了の日とかは、電話で頭から一字一句校閲をやっているんですよ。メールもファックスもないから。食事は全部てんやものになる。生活すべて取られてたから、「この業界は嫌だな」という気分のほうが強かったです。
佐藤 それはそれですごいエピソードですよ(笑)。まあ、まだ中学生くらいまでは、将来よりも、どこに進学するかしないか程度のチョイスしかないですよね。僕の入った高校は、まずスポーツの特待生がバーンとそろっていて、あとは、あくまで当時の僕の印象ですが、勉強すればもっと成績が上がるのに、勉強しない生徒が結構いたように思います。頭というより、妙に要領がいいというか。ずっとひたすらみんな寝てるから、あんまりケンカが起きなかった男子校。今は共学らしいのでもう別世界ですね。
澤田 私は中高一貫女子校に通っていましたが、マイペースで好き勝手を許してもらえる学校でしたね。廊下を歩いていると……建物の2階の廊下でサッカーをやっている子が居て、飛んできたボールが頭にカーンと当たるような。よくも悪くも、いわゆる女子校的イメージではない、今で言うところの多様性のある学校でした。
佐藤 廊下を歩いていたら後頭部にボールが当たる多様性、きつい多様性ですね(笑)。
澤田 女子校ってお嬢様系だと思われがちですけど、基本的に男子校と似ている点が多いんじゃないかと思いますね。それぞれ自分の好きなことをやっている子が多かったから私も同様で、将来のことはあんまり考えてなかったです。
佐藤 男子校の無気力世界はすさまじいですよ。時が止まったような感じがある。僕もその中に居て時を止めてましたけど(笑)。休みの日も、恐い親父の手伝いで現場に行った日なんかは、ひたすらペンキを塗りながら、もう人生終わったかなって思ってました。将来の展望もへったくれもない。
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