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第165回直木賞受賞記念対談 佐藤究×澤田瞳子「1977年9月生まれのふたり」

第165回直木賞受賞記念対談 佐藤究×澤田瞳子「1977年9月生まれのふたり」

聞き手:「オール讀物」編集部

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

動物への愛情とは

 澤田 前のペンネームの時のお作に、亀が出てくるものがありましたけど、亀飼ってはりますの?

 佐藤 亀、どこに出てきましたっけ。

 澤田 『プラスチックハンガー』(「群像」2005年5月号、単行本未収録)に、亀を連れて飛行機で上京するシーンがありましたんで、飼ってはるのかなと。

 佐藤 ああ。すごいですね。そんなものどこで読んだんですか? そう、亀を飼ってるんですよ。

 澤田 やっぱり長生きしますよね。

 佐藤 今年で22歳。動物を飼っていることによって好感度を上げないようにと思って表に出さないようにしているので(笑)。どこから情報が漏れたのかと思って今、ビックリしました。動物を飼ってる方って、時折、写真を出すじゃないですか。

 澤田 出してますね、私も。

 佐藤 本当に好きならいいんですけど、ちょっとSNSで好感度を上げようとしてるんじゃないかなと勘繰ってしまって。でも、猫の好きな人は本当に猫が好きだから、別に好感度を上げようと思ってやってるわけじゃないんですよね。ある日「あっ、これはもしかしてマジで猫好きなんだ」と気が付いた。

 澤田 ひどい(笑)。

 佐藤 ある作家さんが、飼い猫が亡くなった時にとてつもなく落ち込んでいらして、これほどのことだったのか、と。その件について別の人に尋ねたら、「猫好きは好感度のために猫の投稿をしているんじゃないよ」と諭されて、「大変申し訳ございませんでした」と。

 澤田 ペットはサイズにかかわりなくみんなかわいいんですよ。お付き合いのある方には猫好きも犬好きも文鳥好きの方もおいでですが、愛情の注ぎ方は変わりがありません。

 佐藤 亀とかの系列になると、下手したら自分よりも長生きする……。看取られる可能性は何とか避けたい。俺のほうが先に死ぬのかって。そこはちょっと心中複雑で。これはレースですよ。あれ一匹で22年生きていて、ここでもう一匹飼ったら、寿命のレースに僕も加わらざるをえない。厳しいというか、不思議じゃないですか。亀に看取られて逝くというのは。

 澤田 亀、名前はあるんですか?

 佐藤 キッチョムです。吉四六ばなしのキッチョム。昔、オスと思っていて、男二人でがんばろうなって話しかけていたら、ある日卵を産んで、メスだったと。ありがちですが衝撃ですよね。未知の生物が襲来して産卵していったのかと思ったくらいで。両生類や爬虫類は性別が分かりにくい。水棲だと特に。そういえば、澤田さんも水族館好きだとインタビューでお話しされていましたね。

 澤田 そう、働きたかったんです。大学院をやめた後に、海洋系の大学に入り直して、水族館の飼育員になろうと真剣に考えたくらいです。大学受験に成功できる気がしなくて断念しましたが。

 佐藤 それで、今日、直木賞受賞のお土産を持ってまいりまして。どうぞ。アシカのフィギュア。

 澤田 やったー。ありがとうございます。すいません、遠慮なく頂戴いたします。

 佐藤 まだあるんですよ。どうぞ。それはシャチ。あと、ジンベエザメ。こういうのは三つぐらいまとめて買ってこないとね。

 澤田 うれしい。

 佐藤 これで涼んでくださいよ。今日はこのフィギュアを見てダラダラお話ししようと思ってたんで。暑いし、小説の話ばかりするのもきついじゃないですか。僕のイメージだと、水族館好きの人って博物学系なんですよね。動物園好きってピンポイントで何かの動物好きな感じなんですけど、水族館が好きな人は、どっちかというと荒俣宏さんの系譜というか、博物学的。たぶん荒俣さんも、水族館を作りたかったんじゃないでしょうか。いらっしゃいますよね、自分だけの水族館を作ってそこに住みたいという。

 澤田 時々検索しますもん。ペンギンやアシカ、家で飼えないかな、と思って。アクアリウムも挑戦したいのですけど、水槽管理の体力がないのと猫がいるもので。

 佐藤 ドアをガチャッと開けてアシカとかペンギンが出て来たらビックリしますね(笑)。フィギュア、ゴマフアザラシもあったんですが、ちょっとかわいい系で、好感度を意識したお土産になるので、あえてゴマフアザラシは避けて、アシカと、あと、水族館好きな人はジンベエザメがいいかなと。買ってまいりました。

 澤田 ありがとうございます。


佐藤究(さとう・きわむ)

1977年生まれ。福岡大学付属大濠高等学校卒。2004年、佐藤憲胤(のりかず)名義の『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、同作でデビュー。

〈作品〉『サージウスの死神』(佐藤憲胤名義)2005年講談社刊=第47回群像新人文学賞優秀作。『QJKJQ』16年講談社刊=第62回江戸川乱歩賞受賞。『Ank: a mirroring ape』17年講談社刊=第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞受賞。『テスカトリポカ』21年KADOKAWA刊=第34回山本周五郎賞受賞。

澤田瞳子(さわだ・とうこ)

1977年生まれ。同志社大学大学院文学研究科博士課程前期修了。奈良時代仏教制度史、正倉院文書の研究を経て、2010年『孤鷹の天』でデビュー。

〈作品〉『孤鷹の天』2010年徳間書店刊=第17回中山義秀文学賞受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』12年徳間書店刊=第2回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞、第32回新田次郎文学賞受賞。『若冲』15年文藝春秋刊=第153回直木賞候補、第9回親鸞賞受賞、第5回歴史時代作家クラブ賞受賞。『腐れ梅』17年集英社刊=第8回山田風太郎賞候補。『火定』17年PHP研究所刊=第39回吉川英治文学新人賞候補、第158回直木賞候補。『落花』19年中央公論新社刊=第32回山本周五郎賞候補、第161回直木賞候補。『能楽ものがたり 稚児桜』19年淡交社刊=第163回直木賞候補。『駆け入りの寺』20年文藝春秋刊=第14回舟橋聖一文学賞受賞。


(「オール讀物」9・10月合併号より)

単行本
星落ちて、なお
澤田瞳子

定価:1,925円(税込)発売日:2021年05月12日

単行本
駆け入りの寺
澤田瞳子

定価:1,925円(税込)発売日:2020年04月27日

文春文庫
若冲
澤田瞳子

定価:825円(税込)発売日:2017年04月07日

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