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第165回直木賞受賞記念対談 佐藤究×澤田瞳子「1977年9月生まれのふたり」

第165回直木賞受賞記念対談 佐藤究×澤田瞳子「1977年9月生まれのふたり」

聞き手:「オール讀物」編集部

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

挫折から転機が

 澤田 部活は何もやってなかったんですか?

 佐藤 僕は格闘技がやりたかったんですけど、高校では剣道か柔道の二択しかなかったから、地元の空手教室に少しだけ通っていましたね。プロレスは無理だけど、こっちだったら何とかなるんじゃないかって。結局挫折しましたけど。澤田さんはいかがでしたか?

 澤田 高校の時はプラネタリウムの有志上映をやってました。大学へは内部進学で行ったんですが、地学があれば、おそらく、地球科学とかの分野に行っていたと思うんですよ。でも、それはなかったので、消去法で学部を探してました。実は、キリスト教系の大学なので、神学部に行きたかったんですよ。

 佐藤 神学部ですか。

 澤田 ただ親の反対もあり、競争率も高い学部だったので、第二希望だった文化史学科という歴史専攻に進みました。神学部に行きたかったのは、宗教って見えないものじゃないですか。私は知らないことが知りたい性格だから、目に見えない宗教をやりたかったんだけど、比較的見える歴史を選んだので、当時はちょっとモヤモヤッとしながらでした。

 佐藤 そうだったんですね。

 澤田 さらに、本当は日本史よりも世界史に進みたかったんです。ただ、外国語の才能が全くないことが、中学校からの英語の授業がオール3だったことでよく分かっていたから、世界史は無理だろうな、と。それで日本史に行き、なおかつ、「日本史の中でも古代は資料が少ないから読むものが少なくていいよ」というのにまんまとだまされて古代史を専攻した。確かに古代は元々大好きでもあったのだけど、専門にまでしたのは楽な道を流れ流れてなんです。そういう意味ではできることをやってきただけで、全然努力家ではないんです。

 佐藤 それこそが、できる人の言うセリフなんです(笑)。できる人は皆さんそうおっしゃいます。お話を伺っていると、チョイスが絶妙ですよね。山に登っていても、絶対に遭難しないタイプ。僕の場合、イチかバチかで選んだ道がだいたい間違っていて滝に落ちる感じです。

 澤田 家庭がいつ大爆発を起こすか分からない問題を抱えていたもので、せめて外では平和で過ごそうという部分があった気がします。

 佐藤 それは大変なご苦労を……。僕は、あわよくば空手の道へという思いもあったんですが、ちょっとスポーツライクな空手だったので、正拳突きを教わっても、「こんなの実戦では使えんぞ」と言われるんですよ。でも昔の人は使えない技を残すだろうかと疑問だったし、だんだんと心が離れた。結局、やることがなくなっていって、狭まっていって、ついに書くようになったんです。

 初めて作品を結末まで書けたのは26歳かな。ロックスターは27歳でいきなり死んだりするじゃないですか。ジム・モリソンとかジミ・ヘンドリックスとかジャニス・ジョプリンとか。俺もスーパースターになるんだったら27までに何かやらなくちゃ、と思って。ミュージシャンじゃないので、関係ないんですけど、そこはアホだからよく分からない(笑)。当時たまたま知り合った、詩人の河村悟さんに「何か書いたら『群像』に送ったらいいんじゃない?」みたいなことをポロッと言われたんですけど、『群像』が何かもよく理解してなかった。澤田さんが、書き始めたのはいつですか?

群像デビュー後/27歳/2004頃

 澤田 小説を書き始めたのは遅いですよ。大学では歴史の面白さの虜になって研究者を目指していたんですけど、途中で色々あって、ここに居たら人間腐るなと思って半ばやけっぱちで飛び出して。それで、博物館とかで働いてた頃だから、30歳手前ぐらいかな。ちょうど『トリビアの泉』というのが流行っていた時期で、歴史のトリビアを書きませんかと、声をかけられてチマチマと文章めいたものを書くようになりました。

 佐藤 博物館では学芸員として働かれたんですか?

 澤田 私立の美術館で、学芸員の肩書じゃなかったですけど、それに近い感じです。展覧会をやる時は、作品を倉庫から出すお手伝いをして、キャプションを作ったりもしましたし、展覧会が始まったら監視員として座ったりもしていました。あ、あとチケット販売も。

 佐藤 博物館で働くってロマンがありますよね。僕は、高校を出てペンキ屋になって、その仕事を辞めてから、JR博多駅で新幹線の車内販売のワゴンに飲料をセットする仕事をやりました。そのあとDTPの仕事をやったんです。文章も書いたりして。職場には変わった人が居ましたね。東京で編集に関わっていた人とか。彼らに「文章がいいな」とか「身内に物書きがいるのか」と評価されてはいたんです。それで自信というか、業界でも通用するのかな、という気持ちが、勘違いも含めてありましたね。

単行本
星落ちて、なお
澤田瞳子

定価:1,925円(税込)発売日:2021年05月12日

単行本
駆け入りの寺
澤田瞳子

定価:1,925円(税込)発売日:2020年04月27日

文春文庫
若冲
澤田瞳子

定価:825円(税込)発売日:2017年04月07日

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