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第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

「オール讀物」編集部

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

 ――皆さんのお店では、どんな本が売れていますか。

 加藤 有隣堂横浜駅西口店は、時間帯によって客層が変わる店でして、コロナ前は、午前中に年配層、午後から夕方以降に学生や会社帰りの方が来ていましたが、リモート生活が浸透し、学生やサラリーマンが減ってきて、今は六十歳以上の方が主なお客様となっています。時代小説が一番売れるのですが、コロナ禍ということもあって、今年は生き方を考えるような本がよく売れました。雑誌、週刊誌、テレビで紹介された作品はよく売れますね。高校生、大学生の場合は、“TikTok売れ”です。私たち店員が、「なんでこんなに売れているの?」と右往左往していると、バイトさんが「TikTokですよ」と(笑)。

 川俣 私は加藤さんのお店と駅を挟んで逆側、東口にある、紀伊國屋書店横浜店です。百貨店に入っているため、中高年の女性が多く、とにかく皆さん流行りものに敏感で、反応が早い! 例えば、「アメトーーク!」の読書芸人の放送回や「王様のブランチ」の翌日は、番組で紹介された本が朝から売れます。

 花田 有楽町の宝塚劇場の近くにあるHMV&BOOKS日比谷コテージは、演劇、宝塚が好きなお客様が非常に多く、三十代以上の女性が多いです。売れる本の傾向を見ていて思うのは、今は恋愛ではなく“推し”の時代なんだなと。中高年の女性の興味が、恋愛や結婚ではなく、女性との連帯や、推せるものがある生活にシフトしているんです。ここ数年は、恋愛が推しに逆転されていく様を見ています(笑)。

 山本 大盛堂書店は渋谷という土地柄か、二十代の女性が多いです。花田さんのお店とはちょっと違って、江國香織さんの恋愛小説が今もよく売れていますね。最近だと『ブラザーズ・ブラジャー』(佐原ひかり)が売れていて、個人的には嬉しかったです。

 大塚 三省堂書店成城店は、地元の小さな書店が減っていることもあるのか、男女ともに幅広いお客様がいらっしゃいます。年齢層は比較的上で、老いに関する本や、『おとなの週刊現代』、佐藤愛子さんのエッセイがよく売れますね。あと、『文藝春秋』が全国上位で売れているという少し特殊なお店です。

 ――第一回「大人の恋愛小説大賞」の候補作は、三名の書評家、北上次郎さん、瀧井朝世さん、吉田伸子さんの推薦を元に、五作に決定致しました。一作ずつ議論を始めたいと思います。

 

『料理なんて愛なんて』佐々木愛

 ――料理が嫌いな主人公・優花が、憧れの男性・真島を振り向かせるべく、悪戦苦闘しながら“料理は愛情”という考えに向き合っていくという作品です。佐々木愛さんは、二〇一六年にオール讀物新人賞からデビューし、本作は『プルースト効果の実験と結果』に続く二作目です。

 山本 今日はこの作品を一番に推そうと思ってきました。女性が男性から、“料理が好き”というラベリングをされる残酷さと、一方で料理と恋愛を結びつけることの無意味さ、それでも主人公は料理にこだわってしまうというせめぎ合いが、とても上手く描かれていると思いました。佐々木さんの作品はグッとくる名言も多いですね。

 加藤 私はどの候補作も“共感できるか”という視点で読んだのですが、この作品はなかなか共感できなかったんです。一人の男の人をずっと想い続けることは、すごいことだと思うのですが、ちょっとズルズル引きずりすぎじゃないかな、と。

 川俣 「料理は愛情」という言葉に囚われすぎているように感じました。今の時代、別に料理しなくてもいいじゃん、と私は思っているので、なんでそこまで料理にこだわるんだろう? と不思議な気がしました。

 花田 “女は料理ができないと駄目なのか”というテーマは、二十年くらい前から論じられていると思うんです。なので、設定自体が少し古いといいますか、料理というテーマ一本で突き進んでいるのが気にかかりました。

 大塚 恋愛と料理を同じくらいの密度と情熱で書ききると、こんなに独自性を帯びた作品になるんだと驚きました。皆さんの仰る通り、女性が料理に振り回されるのは、少し古い価値観かなと思いましたが、私の知る限り、類似作品を思いつかなかったので、ある意味で新鮮だったんです。ただ、共感という点では私もできなくて、なんで真島さんじゃなきゃだめなの? と思いながら読みました(笑)。

 山本 僕も決して主人公に共感しているわけではないのですが、この作品のポイントは“揺らぎ”だと思っていて。料理と恋愛はもちろん、主人公と母親の関係性も繊細に書かれている。読者に「この先どうなってしまうんだろう」と思わせてくれるんです。その点が候補作のなかで突出した魅力を放っていました。『オール讀物』十一月号に掲載された、佐々木さんの最新短編「加賀はとっても頭がいい」も素晴らしかったので、併せて読むことをお勧めします。

単行本
料理なんて愛なんて
佐々木愛

定価:1,760円(税込)発売日:2021年01月27日

単行本
星のように離れて雨のように散った
島本理生

定価:1,540円(税込)発売日:2021年07月28日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

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    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

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