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第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

第1回「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」 今最も届けたい恋愛小説を決める企画が始動! 記念すべき第一回の受賞作は?

「オール讀物」編集部

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『オーラの発表会』綿矢りさ

 ――友達は一人だけ、周囲と上手く関係を築けない大学生・海松子(みるこ)が主人公。「人を好きになる気持ちが分からない」という彼女ですが、気づけば複数の男性からアプローチを受けていて……というお話です。綿矢さんは二〇二一年にデビュー二十周年を迎えられています。

 加藤 私はこの作品を一番に推そうと思って来ました。海松子は、人の名前を覚えずにあだ名を付ける習慣があって、その設定とネーミングセンスがまず素晴らしいんです。そんな彼女が周囲と関わり合っていくなかで、だんだんと「あだ名じゃダメだよね」と気づき、徐々に人間らしく生き生きとしていく。その変化が本当に魅力的でした。

 大人の恋愛というと、ドロドロしたものを考えてしまうのですが、海松子のような一風変わった恋愛も、ある意味大人と言っていいのではないか、と気づかせてくれる作品です。最後の展開も面白くて、海松子は神通力に目覚めて超能力者みたいになるのですが、これは彼女の抱える心のモヤモヤがパッと晴れていくことを暗示しているのかなと思いました。読んでいる間ずっと「頑張れ、頑張れ」と応援したくなる小説です。

 花田 ジェットコースターのようなストーリー展開に、この先どうなるんだろうとワクワクしながら読みました。まるで変奏曲のような小説で、綿矢さんにしか書けない作品だと思います。読み進めるうちに、海松子のことが好きになっていきました。彼女のことを「個性的でいいよね」と片づけるのではなく、どうやって社会との接点を作って一歩踏み出していくのかが非常にユニークに書かれていて、彼女の人生が立ち上がる瞬間が、まるで眼鏡をかけて視界がくっきりするように描かれていました。

 大塚 私はこの作品を一位にしたいです。本当に愛すべき作品で、文体はもちろん、個性あふれるキャラクターたちとストーリーのバランスが上手すぎるんです。海松子が少しずつ他者と手を取り合って生きていくようになる過程が、透かし彫りのように少しずつ浮き上がってくる。その後ろに恋愛というベースがあって、素晴らしかったです。一人暮らしの部屋に、ある男性が訪ねてきてキスをするという場面があるのですが、そこで海松子がものすごく興奮するんですね。その性欲の萌芽のようなものがとても自然に描かれていて、綿矢さんさすがだな、と。

 花田 私も海松子の性欲の描写が素晴らしいと思いました。性的なことを嫌悪するのではなく、独自の感性で興味を持っていく過程が面白かったです。

 川俣 一気読みしました。海松子のキャラクターが面白く、恋愛感情が分からない、という設定も共感できる部分があって、感情移入することができました。ただ、彼女の周囲に対する“閉じ方”が、少し特殊といいますか、今の時代にここまで周りに無関心な人っているのかな、一応ある程度はちゃんとしていよう、という人が多いと思ったので、そこはやや引っかかりを感じました。

 山本 さすが綿矢さん、とにかく小説が上手いなと唸らされました。ただ、どうしても海松子のキャラクターの強さ、魅力で押し切っている小説だと感じたので、恋愛という意味では少し物足りなかったです。男もみんな良い人に書かれていたので、その身勝手さのようなものを、綿矢さんならもっと書けるのではないかと思いました。

 花田 確かにみんな良い人すぎて、男性たちが小道具のようになってしまっているのかなと思う部分もありました。正直、私は最初の方、海松子の独特なキャラクターに馴染むのに時間がかかったんです。でも、彼女のように何かが過剰だったり、極端な部分を持ち合わせている主人公は、最近の小説に多いような気がします。二〇二〇、二一年に芥川賞を受賞された、遠野遥さんや宇佐見りんさんの作品も、そのような傾向があって、若者に人気ですよね。興味深いです。

 大塚 私はこの装丁だけがどうしても好きになれないんです。可愛すぎて、手に取る人を限定してしまうように思って。

 花田 私は結構好きなんですよね。可愛いけれど、ちょっとギラギラしていて異常というか。

 川俣 ちょっと気持ち悪いですよね(笑)。

 花田 そうそう。一見、「あっ可愛い!」と思うんだけど、よく見ると「いや、なんかおかしい」と気付く感じが好みなんです。

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