ストーカー規制法は、2000年に制定されました。その後、2013年、2016年、2021年と改正が行われています。法が作られ、また改正が繰り返される背景には、それだけストーカー事件が繰り返され、多くの被害者が出ていることを意味しています。
内澤さんが経験したストーカー被害は、2016年に始まっています。2013年の改正では、電子メールの連続送信が、ストーカー規制法の「つきまとい等」に含まれるようになりました。しかし、内澤さんが経験した被害の一つ、「SNSメッセージの連続送信」は、この時まだ、規制法の対象外でした。
被害者の立場からしたら、恐怖感を与えられるつきまとい行為という点で、メールもSNSも変わりません。にもかかわらず、どうしてこの当時、「メールは規制法の対象だが、SNSは対象外」といった頓珍漢な状況になってしまったのでしょうか。その理由は、ストーカー規制法のつくりにあります。
ストーカー規制法は、一条で、安全確保に関する目的を掲げた上で、二条で「つきまとい等」とはいったい何を指すのかを、次のように定義しています。
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
ここで、法律のポイントを見ておきましょう。この法は二条部分で、「感情要件」と「行為要件」、それから「反復要件」を定めていることがわかります。
まず、仮に恐怖を覚える待ち伏せや、不快なメールを送られても、それが「恋愛感情その他の好意」に関連するものでなければ、「つきまとい等」にはなりません。そのため、著名人のアンチや、店員へのクレーマーなどがしつこく絡んできたとしても、「ストーカー」の定義からは外れます。
また、被害者が身の危険を覚えても、法の想定するリストに含まれていなければ、「つきまとい等」にはなりません。そのため、2016年段階では、内澤さんがフェイスブックメッセンジャーでやりとりした内容について、警察が「処罰することはできない」と述べる事態になりました。
2021年にはストーカー規制法が改正されるのですが、ここでもいくつかの「行為要件」が加わりました。主なものは、「GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得」「実際にいる場所の付近における見張り」「拒否されたのに何度も文書を送る行為」です。えっ、と思われるかもしれませんが、この改正が行われるまで、「GPSの無断設置」や「何度も手紙を送る行為」はリストに含まれておらず、規制対象外だったのです。
「実際にいる場所の付近における見張り」についても、不思議に思う方もいるでしょう。改正されるまでは、自宅・職場・学校など、被害者が「通常いる場所」へのつきまといのみが規制対象でした。つまり、たまたまいた店で話しかけたり、旅行先にまでついてきたりすることは規制対象外だったのです。2021年の改正によってようやく、「実際にいる場所の付近」に押し掛けることなども、規制の対象となったのです。
さらにこの法律では、「同一の者に対しつきまとい等を繰り返して行うこと」を「ストーカー行為」と定義しています。なので、一回だけのつきまといでは、ストーカーの定義から外れることになります。
もちろん、「ストーカー的な行為」については、脅迫罪や名誉毀損、迷惑防止条例などで対処できることもあります。それでも、ストーカー規制法の適用対象になることこそが重要な意味を持つ場面もあります。例えば、ストーカー行為だと認められることで、相手に警告や当該行為禁止命令を出すことができますし、被害者がシェルター(一時保護施設)などに避難することにもつながりやすくなります。こうしたことから、ストーカー規制法の対象の、更なる拡大を行うような改正が、まだまだ求められています。
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