「もっと早く教えてもらわないと困ります」不妊治療外来で、患者さんが産婦人科医に聞きたかった「本当に大事な妊娠の話」
出典 : #文春新書
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
保険適用でできること・できないこと
不妊治療に保険が適用され、患者さんの経済的な負担が減ることは喜ばしいことです。
具体的には、人工授精・体外受精・顕微授精(第四章で詳しく解説します)に保険が適用されるようになります。
さらに、高額医療費の補助制度(高額療養費制度)を使用すればもともと一回の体外受精で五〇万円ほどかかった治療が、一〇万円ほどの負担ですむことになります。保険が適用される治療には消費税がかかりませんから、今まで必要だった消費税の支払いもいらなくなるのです。
ただし、手放しで喜んでばかりもいられません。保険診療と自由診療を組み合わせた「混合診療」は日本では認められていないからです。保険で承認されていない新しい治療を受ける場合には、保険でカバーされる治療も自費診療になってしまいます。
不妊治療の最前線で行われている先進的な治療については、第五章で詳しく述べますが、例えばPRP療法(Platelet Rich Plasma=多血小板血漿療法)といって、血小板の力を借りて受精卵が子宮内膜に着床しやすいようにする方法があります。最近開発された治療法のため保険がきかず、PRPを使用する患者さんには従来保険が適用される治療についても保険が使えないことになります。そうなると、保険の適用範囲でまず治療して結果が出ないことを確かめてから、自費でPRP療法を受けるという事態が生じかねず、治療が遅れて妊娠の機会を逃してしまう可能性があります。これでは本末転倒です。
このギャップを埋めるために、先進医療という制度があり、有望な治療法は、審査の上、先進医療として認められれば、保険適用になるまで保険診療と一緒に受けることができます。この場合、保険診療分とは別に先進医療の費用は自己負担になります。
四三歳から始める不妊治療
今回の保険適用には、回数制限があることも重大なポイントです。
四〇歳未満の女性は子ども一人につき六回まで、四〇歳以上四三歳未満の女性は子ども一人につき三回まで保険が適用されます。男性に対する治療には年齢・回数の制限はありません。
また、「子ども一人につき」なので、たとえば三〇代の方が一人目を産むまでに体外受精を六回しても、四〇歳になる前ならば二人目を望んだときに再び六回まで体外受精をすることができます。これらの保険は、結婚している男女だけでなく事実婚のカップルにも適用されます。
ただし、四三歳以上の女性は対象になりません。
これを聞くと四三歳以上の女性は、不妊治療を諦めなければいけないと誤解する方がおられるのではないかと危惧しています。
年齢があがると不妊治療の成績が低下するのは事実です。治療の質を上げ、治療回数も余分にかかる場合が増えます。不妊治療の現場の感覚では、より費用がかかる年齢の高い人にこそ援助が必要なのですが、限られた財源の中で税金を投入するにあたっては、いわゆる費用対効果を考え保険適用が難しいと政府が考えるのもやむを得ないでしょう。だからと言って子どもを諦める必要はありません。
実際、私は不妊治療で妊娠された方の分娩を担当しておりますが、四〇歳~四二歳の方が約三〇%、四三歳以上の方が約二〇%にのぼり多数を占めています。
知れば怖くない
誰しも好きで病院に行くわけではありません。どこかが痛かったり、重い症状があれば必要に迫られますが、不妊の場合、患者さんは基本的に健康な方で、ほかには病院にかかる必要がない方です。産婦人科なんて行ったことがないという人も多いでしょう。病院に行ったら何をされるのだろうと、不安にもなります。
たとえが良くないかもしれませんが、お化け屋敷を思い浮かべてみてください。お化け屋敷は怖いと思いますが、どこでどんなお化けが出てくるか知っていれば怖さが減り、楽しみが増えませんか。妊娠が成り立つ仕組み、不妊の原因、治療法などをあらかじめ知っていれば、前向きに取り組めます。本書は子どもを持ちたいという人の背中を押すことも一つの目標としております。
「医者を選ぶのも寿命のうち」ということばがあります。不妊治療は専門性が高く、産婦人科ならどこでも大丈夫というわけではありません。最初に相談に行くのはご自宅や職場の近くなど、便利なところでも結構ですが、体外受精など高度な治療が必要な場合、よく考えなければなりません。専門のクリニック、専門医がどこにいるのか調べるには、日本産科婦人科学会のホームページも役に立ちます。詳しく知りたい方は本書の八二ページを参照ください。
-
すべてはゲノムが教えてくれる――ウイルスとワクチンに関する最先端の知見をわかりやすく解説
2022.03.23ためし読み -
「かけ」や「もり」は危険、いかにも健康に良さそうな野菜ジュースも実は……「糖質中毒」の知られざる恐ろしさ
-
痩せられないのは糖質が原因? 気づかずに重症化しているあなたの「糖質中毒」
2022.01.26ためし読み -
口のなかの細菌数はウンチと同じ!!
2021.11.05ためし読み -
市販されている飲料品には、どのくらいの糖質が入ってる? イライラや老化の原因になる“糖質”を徹底解剖《数値公開》
-
「東大首席タイプと付き合いたい男なんか、ほかにいないよ」。なぜ女性の価値と学歴には“ねじれ”があるのか
2022.03.31ためし読み
-
『皇后は闘うことにした』林真理子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/29~2024/12/06 賞品 『皇后は闘うことにした』林真理子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。