私は車に酔いやすい体質なので、出来る限りタクシーを使いたくありません。
酔い止めを飲むとすぐ寝てしまうということもあり、この後に生配信があることを考えると電車で行くのが一番良い、と判断しました。
ですが、いざ家を出てみると、思っていたよりも荷物が重い!
まあ、襲(かさね)の色目を確認するために実際の布を貼りつけてある資料本だけでも結構な重量があるのに、その上、どう見ても持ち運びにくい縦長の箱を掴んで歩くわけです。普通に考えて歩きにくいのは明白で、車酔いよりもなぜ先にその労力のほうに思い至らなかったのかと、歩き始めて5分で後悔しました。
しかも、歩きながら気付いたのですが、文春に行くまでの道に、結構交番があるんですよね……。
何故かその日に限って駅前に女性の警察官の方が立っていて、一瞬「カッコイイー!」とミーハーな気持ちになった後、今の自分の姿に気付いて青くなりました。
私が抱えている縦長の箱、どう考えても刀以外の物が入っていると思えないサイズ感なんですよ。いや、真剣ではないですし、模造刀ですらない玩具刀ではあるのですが、なんか妙にドキドキしてしまいました。
私はこれまで職務質問をされたことがなく、もし声を掛けられたら(よっぽど急ぎでなければ)しっかり受け答えしよう、と思っていたのですが、このタイミングはまずいです。
「よっぽど」ではないけれど「そこそこ」急いでいるタイミングだったわけなので、「もしやこれがお初の体験になるのか!? 配信時刻が迫っている今!?」と思うと微妙に緊張してしまい、ますます挙動不審になってしまいました。
結果的に声はかけられなかったのですが、電車の中では一回刀入りの箱を取り落として大きな音を出してしまい、麹町の交番前を通る時もヒヤヒヤして、最後に文春のガードマンさんが目に入った時には逆に「助かった!」と思いましたね。前にも書いた通り、守衛さんの中には私の顔を知っていらっしゃる方がいるようなので、もしここで声掛けられても何とかなるぞ、という……。
無事に集合時刻には間に合ったのですが、私が電車で来たと知った編集長には呆れられてしまいました。
「え、その恰好で電車乗ったんですか!? どうしてタクシー使わなかったんです?」
冷静に考えるとおっしゃる通りです。
さっき落としちゃったからな、どっか壊れてないかな、と思って控え室で刀の状態を確認していると、「お世話さまです」という声と共に控室の扉が開きました。
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