- 2023.11.24
- 読書オンライン
渋谷の星空から火星探検へGO!? 『宙わたる教室』の世界がプラネタリウムでリアルに再現。
本の話
『宙わたる教室』(伊与原 新)
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
定時制高校の科学部を舞台にした、伊与原新さんの青春科学小説『宙わたる教室』。発売前から、「直球できた。今まで読んだなかで一番好きな青春小説に出逢った」(ジュンク堂書店滋賀草津店・山中真理さん)、「人は変われる、人は通じ合える、人は成し遂げられる、ということを教えてくれる」(くまざわ書店新潟西店・大谷純子さん)など、多くの感動の声が届けられてきました。
さらに「この本を読んで、『好き』を見つけたくなりました」(実践女子学園高等学校・齋藤果連さん)、「この本を読んでまた学びたいと思えるようになりました」(渋谷教育学園幕張高等学校・李雨佳さん)、「自分も何かを成し遂げたい、そんな勇気をくれる物語」(立命館慶祥高等学校・佐々木希さん)など、登場人物らと同世代の高校生たちからも共感の声が続々上がっています。
そこで『宙わたる教室』を応援いただいている書店員さんや、高校生直木賞に参加している中学・高校生をお招きした、伊与原新さんのトークイベントが、11月8日(水)夜、コスモプラネタリウム渋谷にて開かれました。本イベントの最大の目玉は、この日のためだけに用意されたプログラムのプラネタリウム投影。
読書も大変好きだという星空解説員の村山さんが、『宙わたる教室』を読んで特別に準備された素材は、まず渋谷から実際に見える星々の説明からはじまりました。夏の名残の大三角形や位置の変わらぬ北極星を確認した後は、いよいよ小説に登場する火星へ旅立ちます。火星の大きさや成り立ち、そこに生命は果たしているのかどうか? さらに探索のために降り立った惑星探査機などが、次々に頭上に浮かび上がりストーリーが紡がれていくのです。
火星からみた月や星座の様子、そして『宙わたる教室』でも登場人物たちが目撃した「青い夕陽」が映しだされた瞬間には、場内から一斉にため息と歓声がもれました。30分弱があっという間のオリジナルプログラムに、投影後、伊与原さんも「まさかこれほど自分の本に出てきた光景が、見られるとは感激しました」と驚いた様子でした。
トークショーでは、神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、大学で教鞭を執っていたという、作家の経歴としては異色の伊与原さんの来し方について、若い頃からミステリー小説を読むのが好きで(ちなみにいちばんの愛読書は綾辻行人さんの『十角館の殺人』と『時計館の殺人』とか)、実験の合間に思いついたトリックでミステリーの新人賞へ応募したところ、作家デビューが叶ったことなどが語られました。もともとは純粋なミステリーを書きたいと思っていたものの、科学や研究者の世界から作品のインスピレーションを得ることがやはり多く、やがて『月まで三キロ』や『八月の銀の雪』へと繋がっていったそうです。
さらに『宙わたる教室』については、大学時代の恩師から面白い実験を発表した定時制高校の科学部があることを知らされたことがきっかけで興味をもったことや、実際そこで調べてみると、想像していた以上に面白いアイディアで進められている実験で、「なるほどこれは小説になる!」と感じて書きはじめたこと、ただし、実際に科学部を取材したのは中盤に差し掛かった頃で、それゆえフィクションの奥行きを広げることが出来たなどと語られました。
続く参加者からの質問コーナーでは、
Q.『八月の銀の雪』が好きです。地球の核の話が出てきますが、この科学の話題を書こうというのを先に決めますか? それともストーリーが先でしょうか?
伊与原 場合によりますが、『八月の銀の雪』では、女性の地震学者(インゲ・レーマン)の人生を物語に取り入れようと最初に決めました。そこにフィットするような登場人物とストーリーを、頭の中でガチャガチャと組み合わせながら考えるという感じです。
Q.私も小説を書いているのですが、なかなかうまく人物が書けません。人物を書く時のコツはありますか?
伊与原 なかなか苦労するところではあると思いますが、まずは周りにいる人をよく観察してみることが基本だと思います。自分が知っている人を何人か組み合わせてモデルにすると、人物が動き出してくれるのではないでしょうか。がんばってみてください。
Q.小説に実験が出てきますが、おすすめの実験はありますか。
伊与原 『宙わたる教室』にも登場させている、おもしろいキッチン地球科学の実験はいろいろありますが……球体を高いところから落としてクレーターを作る実験は、たとえば砂場などでもできるし、色を付けた砂で行うと見た目もきれいなのでお勧めかもしれません。
Q.高校で教師として働いているのですが、理系か文系か進路を悩む生徒も多いです。伊与原さんは地球惑星物理学を専攻されて、地磁気の研究をされたそうですが、それらの進路はどのように決めたのですか。
伊与原 科学自体は子ともの頃から好きでしたが、科学少年というほどではありませんでした。地球の研究、とくにフィールドワークがやりたくて大学の学科は選びました。そこから先は、ほんの些細なきっかけですね。学生でも南極に行かせてもらえるという研究室があって、それはぜひとも行ってみたいとそこへ入ってみたら、地磁気を研究しているところでした(笑)。本当にやりたいことがわからないという生徒さんも多いと思いますが、えいやと決めたところに飛び込んで、まずは一生懸命勉強してみる。どんな分野でも、深く理解が進めば意外なほど視界が開けてきて、その先にいろんな選択肢が見えてくるものだと思います。
特に最後の質問には参加者たちが深くうなずき、伊与原さんに盛大な拍手が送られ、後日、参加した高校生からはこんな感想も届きました。
「貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。元々理科は好きなのですが、どういったわけか地学だけ苦手だったのです。伊与原さんの本を読ませていただいて、むしろ地学に興味を持つようになりました。『宙わたる教室』では火星の夕焼けや断層の実験、『八月の銀の雪』ではコアに降る銀の雪や骨格標本を作る際一度埋めることなどさまざまなことを学ばせていただきました。私は理系の生物選択をとっています。将来は研究職について多岐にわたる実験、研究をしたいです。また、11月23日に三輪田学園科学クラブは学会デビューします。研究の成果をみなさんに興味を持っていただけるよう発表します。いつか学会などでお会いできるのを楽しみにさせていただきます」(三輪田学園高等学校・植木莉奈さん)
今後も『宙わたる教室』が生み出す、感動の輪はさまざまな形で大きく広がっていきそうです。
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『皇后は闘うことにした』林真理子・著
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