- 2024.04.23
- 読書オンライン
世界大学ランキング1位、オックスフォード大学の英国エリートが選ぶ「教養書ベスト10」【フィクション編】……『源氏物語』『わたしを離さないで』『グレート・ギャツビー』がランクイン!
ジョー・ノーマン
『英国エリート名門校が教える最高の教養』より #4
〈世界大学ランキング1位、オックスフォード大学の英国エリートが選ぶ「教養書ベスト10」【ノンフィクション編】……『サピエンス全史』『21世紀の資本』『利己的な遺伝子』がランクイン!〉から続く
世界大学ランキング1位のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ、卒業生の多くが進学。イギリスの歴代首相を40人近くも輩出し、映画『ハリー・ポッター』のロケ舞台にもなったイギリスのパブリックスクール(名門中高一貫校)。
秘密主義に包まれたその教育の奥義を明かした書籍『英国エリート名門校が教える最高の教養』(ジョー・ノーマン著)が話題を呼んでいる。著者自身もイギリス最古の名門パブリックスクールで学び、オックスフォード大学へ進学した経歴の持ち主だ。
本書の目玉となる「秘伝の読書リスト114冊」より、ノンフィクション編ベスト10冊に続き、フィクション編ベスト10冊を特別に公開する。
◆◆◆
(1)『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル 角川文庫ほか多数
児童文学の一冊だが、深い知識が詰め込まれている。ルイス・キャロルはオックスフォード大学の数学講師で、アリスの不思議の国のあちこちに秘密の知識をちりばめた。いくつもの科学や文化を象徴する言葉がキャラクターや出来事に充てられている。「赤の女王仮説」の概念、「みんな勝った。だからみんな賞品をもらわねばならん」というセリフ、「猫のない笑い」となって消えてゆくキャラクター、チェシャ猫などがそうだ。続編『鏡の国のアリス』もある。哲学に興味があるなら、どちらも読もう。
(2)『動物農場 おとぎばなし』ジョージ・オーウェル 岩波文庫(『動物農場』角川文庫ほか)
動物たちが団結して残酷な農夫ジョーンズを追放し、自分たちの共同体を築く。1917年のロシア革命を子供向けの物語に語り直したといえるもので、最後には「すべての動物は平等である。しかしある動物はほかの動物よりももっと平等である」と冷ややかな結論も突きつける。2500年前に成立したとされるイソップ童話以来、人類史上、最高の寓話かもしれない。
(3)『グレート・ギャツビー』スコット・フィッツジェラルド 中央公論新社
イギリスの文芸評論家シリル・コノリーは言った。「彼(フィッツジェラルド)のスタイルは希望を歌い、メッセージは絶望と化す」。謎の大富豪がごく普通の隣人と友達になる。風刺、悲劇、最高に明快なアメリカン・ドリームの解説、文学史上もっとも騒々しいパーティー。約200ページ(村上春樹の翻訳は350ページほど)に、ありとあらゆることが詰め込まれている。わたしの好きな一冊。フィッツジェラルドの傑作短篇集も実にすばらしい。
(4)『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ ハヤカワepi文庫
イシグロがノーベル文学賞を受賞したのは、イシグロ作品がSF小説として、成長物語として読み取れるうえに、哀愁も痛々しい心の叫びも感じ取れるからではないだろうか。語り手は自分がどこに閉じ込められているかわからず、固く心を閉ざしている。同じくカズオ・イシグロによる
『日の名残り』 ハヤカワepi文庫
もまた絶望的に悲しい作品。隠れナチスであったイギリスの上級貴族に生涯仕えた老執事の物語。知らぬ間に社会の構造にとらわれていた執事が語り出す。
(5)『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット ハヤカワ文庫SF
愉快なSF風刺小説。すべては偶然が支配するとする宗教ボコノン教と、あらゆる液体を永久凍結させて世界を死滅させる力を持つ発明品「アイス・ナイン」についての話。ヴォネガットは短篇小説でも辛辣なメッセージを突きつける。「ハリスン・バージロン」(『モンキー・ハウスへようこそ』ハヤカワ文庫SF所収)は、全人類の完全平等が成立し、人より秀でた人間が差別を受ける社会を描く。「ザ・ビッグ・スペース・ファック」は、人類存続のために精子を積んだロケットを宇宙に打ち込むというもので、アメリカのロケットへの執着を揶揄する。
「悪の道に下るのも魅力的」と思わせてくれる一冊は?
(6)『影との戦い ゲド戦記1』アーシュラ・K・ル=グウィン 岩波書店
フェミニスト性が強く打ち出されたSFファンタジー・シリーズ。だが、このような惹句では生ぬるいほど奇妙なシリーズに思える。ル=グウィン翻訳の老子『道徳経』も参照。老子『道徳経』は、権力と幸福について、そして人生の意味について考える中国の古典。
(7)『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド 岩波文庫
美しい男性が魂を売り渡して永遠の若さを手に入れる。だが、自分の肖像画の容貌は老いて醜く変わり果てていく。道徳的な寓話だが、悪の道に下るのも十分魅力的と思わせてくれる。アートの本質について述べたワイルドの痛烈な一言で本書は幕を開ける。「序言」の最後にこうある。「すべての芸術はおよそ無用なものである」
(8)『ブロディーの報告書』J・L・ボルヘス 岩波文庫
わたしの好きな詩人フィリップ・ラーキン同様、ボルヘスは偉大なる図書館員作家だ。ただし図書館員のような知識を備えているという点では、ボルヘスはラーキンより明らかに上だ。なぜなら、『千夜一夜物語』のほか、日本の赤穂浪士の話やビリー・ザ・キッドの神話などの古い文献を巧みに利用し、自身の作品として再構成してしまうからだ。ボルヘスは物語を真剣に受け止める(が、必要以上に真剣に受け止めることはない)人たちに、一本一本織り上げる。
(9)『素粒子』ミシェル・ウエルベック ちくま文庫
比較的最近の作品(1998年)だが、時代を超えたものを感じさせる。「人間嫌い」の要素があるかもしれないが、それは性的な関心を示さない男性の心理に深く切り込んでいるからだろう。避妊薬によってもたらされた1960年代の性解放運動を考え、これを1980年代の経済の自由化とも比べている。結果として性解放運動と経済の自由化の両者によって一部の者がひとり勝ちし、大勢の敗者が苦汁を飲むことになった。
(10)『源氏物語』紫式部 岩波文庫ほか
平安時代中期に成立した長篇小説。恋愛、栄光と没落、権力闘争などが描かれる。ちなみに日本人作家の作品としては
『武士道』新渡戸稲造 岩波文庫
も挙げたい。カリフォルニア州モントレーで書かれ、1899年フィラデルフィアで出版。日本以上に世界で評判の一冊。
※(1)~(10)については、順不同です。
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