西村氏は作家をめざして人事院を退職した一九六〇年当時、毎日午前中は上野の図書館で懸賞応募小説を書き、午後は上野や浅草の映画館をハシゴしていました。敗戦直後にはフランス映画に熱中して新宿の映画館に通いつめたこともあったそうです。
赤川氏と西村氏の衰えを知らぬ人気の秘密、疲れを知らぬ量産の秘密は、両氏のこの作家前史に、特に映画体験にあるといっていいように思います。赤川作品の軽妙な会話やテンポのよさ、西村作品の舞台設定や場面転換のあざやかさは、外国映画の影響を抜きにしては語れません。両氏の作品がテレビドラマでも人気を集めているのは、ミステリー自体としてのおもしろさもさることながら、その映画的な語り口によるところが大きいと思われます。
この両氏と薬丸氏とでは作風に大きな違いがありますが、映画的な語り口という点では共通しています。テレビドラマ化された『悪党』(フジテレビ系、二〇一二年)や『刑事のまなざし』(TBS系、二〇一三年)を見てもわかるように、原作をほぼそのままドラマ化しても(私のような活字人間でさえ)小説作品と変わらぬ感動と興奮を与えられるという得がたい特長があります。逆のいい方をすれば、そのテンポのいい語り口や場面転換のあざやかさが活字読者をも惹きつけてやまないのです。
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