インタビューほか

特別対談
池田克彦(第88代警視総監)×堂場瞬一

「本の話」編集部

『親子の肖像 アナザーフェイスØ』 (堂場瞬一 著)

時代の要請による変化

池田 今回の『アナザーフェイス』の「薄い傷」では、大友鉄が女性アナウンサーの家庭問題の相談にのるでしょう。夫のDVについて。このあたりの書き方がとても現代的で面白かったんですが、いまは「民事不介入の原則」っていうのは一切言わないんですね。現在は警察学校でも教えていないんです。

堂場 恋愛や夫婦関係をこじらせた境界線上の、ストーカー事件が増えてきたからなんでしょうか?

池田 それもありますが、法理論としておかしいという指摘は以前からありました。一番最初は昭和50年代に議論になったのですが、民事不介入の原則は、ドイツで概念上の警察に対して言われていた考え方で、現実の警察活動とは関係がないじゃないかと。

堂場 それを言い訳にして仕事をやらないケースもあったでしょう。

池田 そうですね。ただ、長らくこの言葉が使われていたのは、たとえば交番にいると離婚したいというような訴えが来るんですよ。そんな時にお引き取りいただく一番うまい理由付けに、「民事不介入の原則があるからふたりで話し合ってください」と言っていたんだと思います。もう1つは債権争いの際、まず告訴して警察にいろいろ調べさせて、取引に利用しようとする人がけっこういるので、そこに一線を引く意味もありました。

堂場 でも現実的には、家庭の問題を見逃してしまったがために、エスカレートして殺人事件になってしまうようなケースが出ています。

池田 そう、時代の要請にあわせて、そのあたりの対応は大きく変わりました。

堂場 ところでもう1つ時代の変化という点でいうと、取り調べの可視化が避けられない流れになってきましたね。これはかなり大きなターニングポイントで賛否両論ありますが、私はマイナス面のほうが大きい気がしています。

池田 あれは、取り調べテクニックを独自に磨いてきた人にはそうとう嫌な事だと思います。捜査一課は今だいたい1班10人編成ですが、その中には証拠集めが非常に得意な人もいれば、大友鉄のような取り調べの達人もいる。取り調べのエキスパートはだいたい警部補クラスなんですが、ほかの連中が引いてきた被疑者を落とせないと存在意義がないんですね。だから、そこに己の仕事を懸けていて、取り調べの方法は同僚にも見せないほどです。

堂場 全部オープンにされてしまうことには強い抵抗感があるでしょうね。

池田 通常、立会人には気心が知れている者をつけるんです。だいたいは警部補が取り調べて後輩が立ち会うことが多いのですが、その技術は一子相伝のようなもの。もちろん上司の警部とかは別室から見ていることもありますし、警部自身が調べることもありますが。

堂場 よくテレビドラマであるような、取り調べで引っかけをやるのはダメでしょう。相手にしゃべらせるために罠を張るようないい方は。

池田 それはダメです。絶対やるなと言っているのが、共犯がいて、いかにももう1人の共犯が吐いたようなニュアンスで伝えてしゃべらせ、もう片方にも同じようにやること。これを「切り違え」というんですが、一番やってはいけない。

堂場 それをやると公判でバレますからね。間違いなく弁護士が突いてきますもんね。やはり姑息な手は使うなと。

池田 そうです。あと取り調べで怖いのはすぐ自供する者。すぐ自供する者は楽そうに見えるのですが、嘘を言っている可能性があります。被疑者によっては相手に迎合するタイプの人がいて、「あの事件やっただろう」と何回か言われているうちに、偽の自供をする場合があるので、そこは慎重を期します。いろいろな経験知の集積やテクニックがそこにはあるわけですが、本書の「取調室」じゃないけど、結局は人間性に訴えるのが一番うまい取り調べなんですよ。

堂場 昔ながらの人情じゃないけど、それは絶対必要ですよね。調べているほうの人格が問われるとよく聞きます。取り調べは、全人格をかけた闘いだと。

池田 おっしゃる通りです。ところで、大友はこの先、出世しないんですか?

堂場 階級的にはいま巡査部長という設定ですが、それは考えてもみなかったですね(笑)。

池田 巡査部長なら、次は警部補になるしかないですね。警部補になったら警視庁の場合、最初は地域の交番をやらされるでしょう。でもすぐ引っ張られて署の刑事課の係長になるのはどうですか。

堂場 思わぬご提案がでました(笑)。

池田 これからも楽しみにしています。

堂場 今日はありがとうございました。

親子の肖像 アナザーフェイスØ
堂場瞬一・著

定価:本体550円+税 発売日:2014年10月10日

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