白石 収入で区切るためには、財務省と厚生労働省の連携が必要になりますから、現在のような縦割り行政では難しいですね。年金も介護保険もそうですが、まずは国民一人ひとりのナンバリングを一元化することから始める必要があるのではないでしょうか。
病歴やクスリ、医療保険などを電子化しておけば、翌年の保険料も自動的に決めることができるし、クスリの飲み合わせなどもデータで管理できます。高所得者から多く医療費をとることも実現できるでしょう。
そもそも、ハイリスクの人だけをまとめた保険なんて、世界中どこを探してもありません。
事故を起こすと保険料が上がる自動車保険と同じように、医者にかかると保険料が高くなるという仕組みにしてはどうなんでしょうね。
中原 軽症の患者さんが医者にかかる回数が減るかもしれませんね。
がんや心筋梗塞のもととなる「タバコ」を吸う方も、やはり保険料を高めに設定すればいいと思います。
白石 ところで、後期高齢者医療制度は、延命治療を妨げるとの声もありますが。
中原 延命治療にかかる費用って、いくらかご存知ですか?延命治療を受けた患者さんが死亡する前の一カ月間にかかった終末期医療費の平均は、約百十二万円です。平均で百十二万円ですから、なかには二百万円以上かかった方もいるでしょう。それだけの医療費を使ってまで、患者さんが延命治療を望んでいるかというと、決してそんなことはありません。
厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」が二〇〇三年に実施した調査によると「単なる延命治療はやめてほしい」という人が七四%もいました。
白石 一九七〇年代までは八割以上の人が自宅で人生を終えていたのに、いまでは逆に八割以上の人が病院で臨終を迎えているそうですね。病院で死ぬということは、とりもなおさず、延命治療を受けることになると。
中原 延命治療でお金がかかるのは、中心静脈から水分や栄養分を補給する「中心静脈注射」という治療にかかる費用が大半です。日本の患者さんは、終末期医療に高いお金を支払わされているんです。実際、日本では年間九千億円の終末期医療費が使われているのですから。
白石 住み慣れた家で最期を迎えたいと思う方は多いはずですが、現状、家で終末を迎えるのが難しい理由はどこにあるのでしょうか。
中原 医者は二十四時間以内に診察していない患者さんの死亡診断書は書けないからです。医者の死亡診断書がないと不審な死ということになるので、警察に連絡して司法解剖に回されることになります。
この法律のために、人生の終りである死の迎え方がガラリと変わってしまったんですよ。家で死を迎えたいと思ったら、一日一回は往診に来てくれる医者がいないと、死亡診断書を書いてもらえません。ただでさえ医師不足なのに、いつ亡くなるかわからない患者さんのために毎日往診に来てくれる医者など、滅多にいないでしょう。
白石 「クオリティ・オブ・ライフ」は、終末期医療でこそ生かされなければなりませんよね。今後、在宅医療の可能性は広がっていくと思います。もっと多くの人たちが地域で医療を受けられるようにすべきでしょう。そのためには、地域医療の仕組みをつくり、往診をしてくれる医者を増やすべきだと思います。
中原 尊厳死の問題も、日本尊厳死協会に頼るだけではなく、国がもっと積極的に進めるべきなんですよ。どういう終末期を迎えたいのか、書面で書き残すよう国が啓蒙していくことが必要ではないでしょうか。
白石 終末期医療にかぎらず、私たち国民は、流される情報を鵜呑みにするのではなく、賢く取捨選択していくことが大切ですね。一人ひとりの意識改革こそ、日本の医療を変える大きな原動力になるのだと思います。
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